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 前回に続き、シリコンバレーのコンサルティング会社 ミューズ・アソシエイツ 社長 梅田望夫氏に、Googleの本質と、日本がとるべき道を聞いた。梅田氏は、GoogleはIntelやAppleの系譜に連なる、ネットワークの向こう側で「モノづくり」を行う技術志向のコンピュータ・メーカーだと指摘する(聞き手はITpro発行人 浅見直樹)。

-- Googleの強さの源はどこにあるのでしょうか。

梅田氏 Googleは研究開発指向が強いコンピュータ会社だと思った方がよいでしょう。

 2000年にバブルがはじけた時、博士号をもつエンジニアを積極的に雇用したのは、GoogleとVMWare社くらいでしたから。そこが、単なるネット上のサービス業に留まっていたYahoo!などとの決定的な違いでした。

 ですから、IBM社やIntel社、Apple社の流れを汲んだ、コンピュータ・テクノロジーの系譜に記載しないといけない。

ネットもコンピュータも「美しくないものは作り直す」

 今のGoogleをみていると、まさに全能というか、何でもやれてしまいそうな気配があります。コンピュータも、インターネットも全部、作り直してしまいそうな勢いがある。Googleの本社に入ると、壁に巨大なホワイトボードがあります。そこにGoogleの社員が「Googleがやるべきこと」を好き勝手に書き込んでいる。宇宙旅行など半ば冗談もありますが、今のスタンダードでエンジニアリングの観点からして美しくないものは再定義するのだと、彼らは真剣に考えています。

 Googleのエンジニアと話していると「こういう風にモノが出来ているのは美しくない、今の技術ならこう美しく作ることができる。じゃあ作ろう」と、そういう発想なんですね。今までのネット産業にはこういう会社はなかった。

-- 「ネットを使うだけの会社」じゃない、つまりコンピュータを売らないコンピュータ会社ということですね。

梅田氏 まさに垂直統合型のコンピュータ会社といえます。全部、自分でやろうとしている。

 原発のような巨大設備を自前で運営する電力会社のようです。ですから私はGoogleのコンピュータを「情報発電所」と表現しているわけですが。コンピュータの放熱・冷却という問題から、バックエンドの広帯域ネットワークの整備まで自ら手がける。

 同社のデータセンターがどこにあるのか、それは機密事項ですが、約30万台のサーバーがあり、その10%のマシンが故障しても支障なく動き続けるといわれています。そんなことを実現するには、水平分散型のアプローチでは限界がある。OSなど、ソフトウエアの深いレイヤまで改良する必要があります。

 Googleはエンジニアのエンジニアによるエンジニアのための会社なんです。ハッカーの集まりといってもいい。

 彼らが最も嫌うのはビジネス判断が先に立って、平凡な会社になることです。Googleの創業者は、そういうことに徹底的にNOと言った。

 (元SunのCTOである)Eric E. Schmidt氏を迎え入れる際も、「彼がPh.Dを持っているからCEOをやらせてやってもいいよ」と言ったとか。本田の創業時も、そういう雰囲気だったんじゃないかと思います。

-- そのころ、日本の電機業界は、研究開発の方針をシーズ指向からニーズ指向に切り替えていました。経営陣は、「研究開発者も営業に出て社会のニーズを探れ」と言っていましたから。

梅田氏 やむを得なかった面はある。2001年~2002年の電機メーカーは、経営危機に陥っていたから。

 ただ、2003年ころに業績が持ち直した際、研究者の意識を元に戻さなければならなかった。残念ながら、今になってインターネットに本気になろうとしても、「Too late」、遅すぎますが、意識さえ戻せば別の領域でのブレークスルーはいくらでも生まれると思う。何かを生み出し得る超一流の技術者をもっと大切にすることです。

-- Googleの先行きに死角はないのですか。

梅田氏 確かに「万能感」はありますが、神格化する必要はない。これから先、どうなるかはわからない。

 Googleは「あれもできる」「これもできる」と夢を掲げていろいろな研究テーマを手がけていますが、すべてが使い物になるかといえば、必ずしもそうではない。例えば自動翻訳なんか、そんなに甘いものじゃありません。映像の理解も簡単ではなく、Googleがやったからといって一足飛びに問題が解決するわけでもない。それに、これからは大企業病の萌芽も不安材料ですし。

-- 日本は、インターネットのインフラという点では世界をリードしています。それでも、IT技術は輸入超過が続いています。この状況が変わることはないのでしょうか。

日本の若者のポテンシャルはすごく高い

梅田氏 あちら側で世界と戦えるようになるのには、まだ時期尚早ですね。私たちの世代では、まず無理でしょう。今、10~15歳の子供が大人になったとき、IT技術を本格的に世界と勝負できるようになる可能性はあります。

-- そこまで待たないとだめでしょうか。

梅田氏 そういうものでしょ、プラットフォームって。10年から15年に一回の変化ですから。

 テクノロジのパラダイムシフトが起きるときでないと、そういう大きなチャンスはめぐってきません。次の時代に何が来るかわかりません。今の20歳前後の人材はポテンシャルがすごく高い。その成長を大人が妨げないようにしないと。

-- ただ、若手の間で情報産業は人気が落ちているようです。東京大学の情報工学科が定員割れしたとか。

梅田氏 米国でも、コンピュータ・サイエンスを志望する学生は減っています。大きな原因はオープンソースだと私は思います。ソフトウエアのスキルを身につけても、「ソフトウェア・ベンチャーを起こして一攫千金」という期待感が縮小しているし、飯が食えるソフトウェア開発の仕事はアウトソーシング先との価格競争で先行き厳しい。そういう大きな流れの根源にオープンソースがある。

 オープンソース・ソフトウエアは、200万人が開発に参加しているといわれます。グローバルでバーチャルな研究所ができたようなもので、インターネットが生んだキラーアプリのひとつです。誰でも参加でき、いいコードを書けば評価され、自己実現ができるという理想的な研究所です。ただお金はもらえない。最近では少しずつオープンソースの世界にもお金が流れ込んでいますが、オープンソース全体のモメンタムの巨大さに比べれば小さいのが現状です。

-- 日本もかつてメインフレームなどコンピュータを作った人はたくさんいるのに、世界に出て行こうという人は少ないようですが。プレイステーションを創った久多良木氏のような意欲的な人は例外的ですね。

梅田氏 久多良木氏にお会いしたことはありませんが、日本には珍しいビジョナリーですね。

 一部を除けば、日本企業は精神が老いています。昔は日本の企業も若かったわけです。エンジニアは無謀なまでのエネルギーを発散できた。

 今の日本企業からは全く新しいフロンティアに挑戦する覇気が感じられません。好き嫌いは別として、アメリカには、社会全体として、フロンティアが好きでそこに向かいたいという衝動がある。

 ある人が印象的なことを言っていました。「アメリカは、モノを作らなくなったと思ったら、あちら側にこんなモノを作っていたんですね」と。つまり、Googleのことです。検索窓しか見えないので、なかなか理解しにくいのですが、これはモノづくりです。

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