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青山商事の青山理社長(左)と,東京大学大学院の坂村健教授(右)
青山商事の青山理社長(左)と,東京大学大学院の坂村健教授(右)
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袖のネームタグに入ったICタグを情報端末で読み取る
袖のネームタグに入ったICタグを情報端末で読み取る
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袖の拡大部とICタグ
袖の拡大部とICタグ
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読み取り装置(中央)のフックにスーツを掛けると,右側の情報端末はスーツの情報を表示する
読み取り装置(中央)のフックにスーツを掛けると,右側の情報端末はスーツの情報を表示する
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情報端末の画面例。シャツやネクタイなど,推奨する組み合わせを表示する
情報端末の画面例。シャツやネクタイなど,推奨する組み合わせを表示する
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店員は端末でスーツの流通履歴を確認できる。画面では温度,湿度,揺れなどの情報を表示している
店員は端末でスーツの流通履歴を確認できる。画面では温度,湿度,揺れなどの情報を表示している
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今回の実証実験で使っている業務用の情報端末「業務用UC(ユビキタス・コミュニケータ)」
今回の実証実験で使っている業務用の情報端末「業務用UC(ユビキタス・コミュニケータ)」
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 紳士服大手の青山商事は3月9日から,東京・池袋の紳士服店「洋服の青山」で,RFID(無線ICタグ)の実証実験を開始した。店舗3階に並べたスーツ約300着の袖には無線ICタグが付けられており,顧客は情報端末でスーツの情報を引き出しながらコーディネートできる。実証実験には,坂村健 東京大学大学院教授が率いるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所などが協力する(関連記事)。

 青山商事の池袋東口総本店には,スーツに付けられたICタグを読み取る装置と情報端末を設置した。この装置のフックにスーツを掛けると,端末はスーツの色やサイズ,デザイン上の特徴といった基本情報に加えて,組み合わせに適したシャツやネクタイの情報なども表示する。

 同社の青山 理 社長は,「当社は全力で接客するのが基本だが,最近は店員が張り付いた接客を好まないお客様も多い。このシステムを使えば,お客様は商品情報を詳しく見ながらじっくり商品を選んでいただける。一方で店員もこのシステムを使えば,商品情報を使ってきめ細かい接客ができる。実証実験で,こうしたメリットを見極めていきたい」と期待を寄せる。

 ICタグは接客業務だけでなく,バックヤード(作業場)での業務にも使う。店舗に入荷したスーツのICタグを読み取ることで,検品作業の効率化が狙える。

ICタグを物流から店頭まで“一気通貫”で活用

 今回の実験におけるICタグ活用の場は,店舗にはとどまらない。店舗で使っているICタグを,スーツの生産工場や,物流センターなど,異なる場面でも活用している。ICタグに物流や商品管理などさまざまな情報をひも付けることで,一つのタグを中国の生産工場,日本の物流会社,青山商事の店舗といった形で,複数の組織が時と場合に応じて流用できるようにした。

 最初にICタグが付けられるのは,青山商事がスーツの生産を委託している中国の工場。出荷時,スーツに付けられる。スーツは船便で日本に運び込まれ,大阪の物流センターとトラックでの輸送を経て,池袋の店舗に入荷される。店舗でスーツを顧客に引き渡す際には,ICタグをはずす。はずしたICタグは中国の生産工場に戻し,再利用する。

 複数の局面で利用するために,ICタグには識別番号だけを格納する。別途用意したサーバーに,識別番号と対応付けた運送履歴や商品情報を格納し,各組織が状況に応じて,必要な情報をICタグをトリガーにして引き出す形態にした。仕組みとしては,坂村健教授が提唱した「uID」を使用する。uIDは固有のIDである「ucode」を発行・管理するシステムである(関連記事)。

 また,用途によっては別のICタグを併用する。実証実験では電池やセンサーを内蔵した多機能型の「アクティブ・タグ」を,スーツを運搬する際に使うハンガーに組み込んだ。アクティブ・タグで,コンテナ内の温度や湿度,揺れを計測し,スーツがどのような環境で運ばれてきたかをデータとして蓄積。そのデータを物流センターなどで集約し,青山商事のサーバーに転送する。

 青山商事はデータを参照しながら,スーツに再度アイロンがけが必要かどうかを判断し,アイロンがけの業務スケジュールを組み立てる。アイロンがけの必要がない商品は先に店舗に輸送する。アクティブ・タグにはYRPユビキタス・ネットワーキング研究所が開発した「Dice」を使う(関連記事)。

 従来は,このようなデータを計測・蓄積する手立てがなかった。このため青山商事では担当者がスーツを一品一品目で確認して,アイロンがけが必要かどうかを判断していたという。この計測データは,店舗のバックヤードに設置した情報端末でも確認できる。

ICタグ活用の範囲が組織横断・国際的に

 坂村教授は,「今回の実験は“超える”がテーマ」と話す。「工場だけ,あるいは店舗だけ,という限られた領域ではかなりICタグの活用が進んでいるが,組織や国を超えて使おうとするケースは,今回の実証実験が初めてではないか」。

 ICタグ関連の機能は,従来青山商事が運用してきた物流管理や商品管理のシステムに追加した。「既存システムへの大きな変更はない」(坂村教授)。システムの投資対効果について青山商事の長谷川清秀執行役員IT・システム部長は,「まだ細かくは見ていないので確定的なことは言えない」と前置きした上で,「商品管理の効率化や顧客満足度の向上といったメリットの方が大きい」と説明する。

 実用化について青山社長は,「今後も数回の実験を実施して,課題を洗い出していく。2~3年以内には,全店舗での導入を狙いたい」と展望を語る。店舗での実証実験は3月15日まで。