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漫画家松本零士氏は日本漫画家協会著作権部会長やコンピュータソフトウェア著作権協会理事を務める
漫画家松本零士氏は日本漫画家協会著作権部会長やコンピュータソフトウェア著作権協会理事を務める
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 「銀河鉄道999」「宇宙戦艦ヤマト」など作品が世界中で愛されている漫画家・松本零士氏。本業のかたわら日本漫画家協会著作権部会長やコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の理事を務める。アニメーションや漫画の海賊版被害の現状と、パソコンやインターネットの普及が創作活動にどのような影響をもたらしたのかを聞いた。

■ACCSの理事を務めて3年になる。著作権を取り巻く現状をどう見ているか。

松本:海賊版の状況は過去とは比較にならないくらい増加している。正式に販売されているものの100倍以上の海賊版が出回っているのではないかと思う。

 私は日本でも最も早い時期にネットで連載を行った。1999年に開始した「ニーベルングの指輪」では、海外のWebサイトが全編転載していたことがあった。ただ、あの頃はこちらから「一部を紹介するような形はかまわないが、全編転載はやめてくれ」と連絡したら、先方からは謝罪がメールで届くなど、今と比べるとのんびりしていた。

 ところが、現在は、複製を可能とする機材が安価で誰でも入手できるようになった結果、たった1人で海賊版DVDを34万枚も売りさばいていたようなケースも報告されている。

 海賊版の海賊版の海賊版というようにコピーの連鎖を止めようがなく、何が原型だったか分からないような状況も生まれている。その課程で原作に改変が加えられたものが広がっていくケースもある。

■どのような対策が必要だと思うか。

松本:現状は技術の進歩が先行してさまざまな問題が発生している「過渡期」なのだと思う。この後、必要な取り組みは大きく2つになるだろう。

 1つは技術的な取り組みだ。コピーできない印刷技術やネットで作品を発信する側がコピーをさせないようにコントロールできる仕組みなどを入れられるようにしたい。メーカーにはコピーができる機材に、著作権保護を手助けするような防御機能を搭載してもらいたい。

 もう1つは「人の作品を勝手に販売してはいけない」というモラルをすべての人に持ってもらう啓蒙活動だろう。これは国を超えて取り組んでほしい。

 私の作品も世界中に海賊版が出回っているのをこの目で見てきた。1人の作家が訴えても梨の礫(つぶて)になってしまい、空気を相手にケンカしているような気分にさせられる。結局、国を超えて発生している問題については、公的な組織が表になってくれないと交渉にならないのが現状だ。国を超えた著作権の管理機構などをぜひ作ってほしいと思う。

 よい作品には「何のために」作られたのかという作品としての目的意識がある。そのメッセージを発しているのは、ほかでもないクリエーターだ。だからこそ、クリエーターがきちんと報いられる仕組みが必要だと思う。その作品を創作できるのは世界中で1人なのだから。

■海賊版の問題は、ネットや情報技術の普及がもたらした負の側面といえる。

松本:作品の普及という意味では、ネットや技術の進歩には、いい点と悪い点が同居していると思う。世界中に自分の作品が紹介され、多くの人を楽しませることには、クリエーターとして純粋な喜びを感じる。残念ながら、海賊版がその一翼を担っていることも事実だろう。

 ネットでの作品連載中には、ネットの双方向性を生かしたいと思い、読者がクリスマスのメッセージを自由に書き込めるような環境を提供した。この試みには「作品の中で宇宙旅行をしているような気持ちになった」というような感想が届いた。このような読者からの感想は、作家としてうれしいものだ。

 読者の広がりもネットならではのもの。ネット連載を行っているWebサイトへのアクセス数は日本語版だけの掲載時には1日あたり3万件だったが、英語版を開設したら1日で36万件と、10倍に増えた。

■作品作りに心がけていることは。

松本:私は信条や宗教、歴史など国や民族によって違う文化に対して、自分の作品が土足で踏み込むようなことがないように心がけてきた。それは、どこかの国の人が見て嫌な感情を感じるような作品は描きたくないからだ。ネットの普及によって、このような考え方は今後、ますます大事になっていくだろう。

 創作家としての強い信念に基づいて、文化の違いを取り上げるような作品を作るならかまわないが、ダジャレで異なる文化や習慣などを面白半分に取り上げることはやってはいけない。漫画やアニメの世界に国を挟んだ確執はない。漫画やアニメには、スポーツと同じように人と人をつなぐ土台となる力があると思う。

 漫画家はお金のためというよりも描くことが好きで作品を作り続けている。漫画家仲間で、「漫画を描いてお金をもらって悪いと思わないか」という話がでて、みんなが「悪いと思う」と答えた。漫画家は、本当に漫画が好きなので、描きたい作品ならタダでも描くだろう。その分、今まで、著作権などの問題にあまり熱心でなかったかもしれない。でも、自分の作品が海賊版の中で勝手に書き換えられてしまい、それが自分の作品への間違った評価になるようなことは防がなくてはならない。著作権を守るというのは金銭を超えた部分でも重要なことだと理解してほしい。