デル日本法人の本社が入居する川崎市の「ソリッドスクエア」
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デル日本法人の小菅一憲・経営品質本部BPIマネージャー
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 パソコン大手の米デルが、世界的に有名な2つの業務改善手法を組み合わせた「リーン・シックスシグマ」の推進体制を強化した。同手法は、トヨタ流改善手法「カイゼン」と、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が1990年代半ばに磨き上げた「シックスシグマ」を融合させたものだ。

 デルのリーン・シックスシグマ手法は、「BPI(ビジネス・プロセス・インプルーブメント)」と呼ぶ年次プロジェクト・ベースの業務改善活動のなかで使う。デルは多くの米国大手企業と同様、90年代後半からシックスシグマを採用していたが、ここ数年徐々にカイゼンの要素を盛り込んで来ていた。

 デル社内には、BPIで使う業務改善手法を詳しく解説した教科書が存在する。2006年2月に発行した2006年度版のBPI教科書で、リーン・シックスシグマ手法を本格的に取り上げるようになった。従来300ページだった教科書は、一気に400ページとなった。

 これを受けてデル日本法人は3月、シックスシグマあるいはリーン・シックスシグマを使ったBPIプロジェクトを21個スタートさせた。21人のプロジェクトリーダーはそれぞれ社内で自由に人を集め、平均5人のチームを結成。4月26日・27日、5月11日・12日の計4日間に分けて、各リーダーが改善すべき業務課題の真因の分析結果を発表。11月~来年1月までをめどに、改善策の案を考え出し、パイロット導入を済ませ、改善効果の実証データを集め、有効策を確定させる。

 BPIプロジェクトの推進支援役を担う小菅一憲・経営品質本部BPIマネージャーは、今回のBPI改訂のポイントをこう説明する。「一番強調されていた点は『時間』だ。まず業務の流れを細分化し、付加価値を生み出している作業と、そうでない作業に分ける。次に付加価値のない作業に費やす時間をいかに短くするかを考える」。これは、トヨタ流カイゼンの中核的アプローチの1つである。

JITとの親和性が高いデルの事業構造

 デルは、消費者から注文を受けてからパソコンを短時間で生産・出荷する。必要なときに必要な数だけ生産し、在庫をゼロにする「JIT(ジャスト・イン・タイム)」を実現しやすい。つまり、トヨタ自動車と類似の事業構造だ。製品の価格帯や製造の複雑さこそ違うが、カイゼンへの適合性は高い。

 2002年11月にGEからデルに転職した小菅氏は、「BPIで使うシックスシグマは、GEで使うものとは違って、高度な統計分析ソフトをいっさい使わない簡易的な手法だ。その代わり、5 Why(なぜを5回繰り返すことで問題の真因を突き止める手法)や5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)など、カイゼンの重要な概念やツールが多数盛り込まれている」と説明する。

 デルがカイゼンに傾倒した背景には、2001年に米国でITバブルがはじけ、創業以来続いていた業績面での成長にブレーキがかかったことがある。ケビン・ロリンズCEO(最高経営責任者)が危機感を抱き、企業文化を育むことの大切さを痛感。経営理念「ソウル・オブ・デル」を明文化すると同時に、事あるごとに「Kaizen(カイゼン)」と言うようになった。

 一般にカイゼンは生産業務のほうが適用しやすいが、工場を持たないデル日本法人でも積極的にリーン・シックスシグマ手法を活用する。まず基幹業務プロセスを顧客からの視点でとらえ、「製品選定→注文(電話・Webサイト)→製品待ち→製品到着→開梱→使用開始→不具合発生→修理」というバリューストリームマップ(付加価値のある作業工程を浮き彫りにするための業務フロー図)を描く。

 このうち例えば注文工程には「つながらない、対応が悪い、技術的スキルがない」といった問題が起こり得る。年度ごとの経営戦略と照らし合わせ、改善すべき問題に優先順位を付け、解消していく。一昨年度に実施したBPIプロジェクトの1つでは、音声応答装置とオペレーターとのバランスを見直し、まさにこの問題に対処した。

 また、デル日本法人が昨年度に手がけたBPIプロジェクトの1つは、パソコンに同梱する日本語マニュアルの拡充だ。「当社マニュアルの評価はいつも最下位だった。そこで、競合がどこかとどこかを明確にし、ページ数や内容のカバー範囲などを徹底的に比較。顧客満足度向上の観点を踏まえつつ、大幅に見直した」(小菅氏)

 BPIプロジェクトは、売上拡大を狙う、顧客満足度を高める、職場環境を良くする、のいずれかの観点で取り組む。昨年度の業績効果は、全世界で約2000プロジェクトを実施し、20億ドルに達している。

 「理想を言えばトヨタ自動車のように(日々改善する文化を)根付かせたい。しかし、外資系企業は人の出入りが激しすぎて、容易ではない」(小菅氏)。トヨタ自動車による真のカイゼンは、社員一人ひとりの自発的な改善活動がベースだ。デルのBPIプロジェクトは趣を異にする。人材の流動性が高いデルには、期間限定のプロジェクト・ベースの改善活動が向くようだ。