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写真1●未踏ユースパネルの様子。左から筧捷彦PM,宇田道信氏,酒徳峰章氏,川合秀実氏,西尾泰和氏。後ろを歩いているのが竹内郁雄PM
写真1●未踏ユースパネルの様子。左から筧捷彦PM,宇田道信氏,酒徳峰章氏,川合秀実氏,西尾泰和氏。後ろを歩いているのが竹内郁雄PM
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 未踏ソフトウェア創造事業の元開発者や現開発者の有志が集まり,「ESPer2006」というイベントが2006年5月20日,東京都渋谷区の日本薬学会長井記念ホールで開催された。「ESP」とは「Exploratory Software Project」すなわち未踏ソフトウェア創造事業のことだが,「ESPer(超能力者)」の名に恥じない高度な技術を持つプログラマが勢揃いし,大いに盛り上がった。

 最初に行われたのが「未踏ユースパネル」というパネル・セッション(写真1)。まず,未踏のプロジェクト・マネジャー(PM)を務めていた竹内郁雄氏が,未踏ソフトウェア創造事業や未踏ユースの生い立ちを紹介。同氏によると,経済産業省は今では「未踏はもうやめられない」と言っているという。「(これだけ続いたものを)やめるということは“何らかの意図”があることになり,猛烈な勇気が要る」(竹内氏)。もはや,やめるには“理由”が必要なのだ。情報処理推進機構(IPA)にとっても未踏は看板になりつつあるという。

 次いで,四人のプログラマが未踏ユースでの自身の成果を中心に発表した。酒徳峰章氏は日本語プログラミング言語「ひまわり」と「なでしこ」,宇田道信氏は独自の電子楽器「ウダー」とその練習ソフトについて,それぞれ開発経緯を披露した。西尾泰和氏は「直感的にいじって遊べる」ことを意味する「可遊化」の概念を提唱。オブジェクトを直感的に操作できるグラフィックスのプログラムをデモンストレーションした。川合秀実氏は,自身が開発したOS「OSASK」やベストセラーになった著書「30日でできる! OS自作入門」(毎日コミュニケーションズ)を取り上げた。

 パネルのあとは,11人の未踏OBが未踏での成果や現在の状況について発表した。内容は以下の通り。

  • 井尻敬氏(東京大学大学院)
    「スケッチインタフェースによる植物モデリング」
    3次元の植物オブジェクトを簡単に描くツール

  • 近藤秀和氏(Lunascape)
    「ウェブブラウザの未来」
    製品としてのLunascapeと企業としてのLunascape

  • 田川欣哉氏(takram design engineering)
    「レーザードローイングツール『Afterglow』の開発」
    プレゼン中にレーザー・ポインタで直接書き込み

  • 新井俊一氏(メロートーン)
    「『未踏とその後』−楽しく金を稼ぐということ」
    福岡で1人で起業した体験

  • 田畑悠介氏
    「オープンソース日本語入力システムの変革」
    日本語入力システムAnthyと多言語対応の入力メソッドuim

  • 笹田耕一氏
    「Rubyを実装するということ」
    次世代Rubyのための処理系YARV

  • 大谷淳平氏
    「ゲーム開発の学習に特化したミドルウェア Lamp」
    教育を念頭に置いたゲーム用ライブラリ

  • 岡野原大輔氏(東京大学)
    「大規模データ利用の理論と実際」
    大容量データを非常に高速に検索

  • 光成滋生氏(ユーテンネットワークス)/渡辺秀行氏(アイビス)
    「タイムカプセル暗号」
    復号鍵に時報局の署名を使う暗号化手法

  • 今野賢氏(ヤフー)
    「情報家電プロトコルスタックの開発の展開」
    マルチプラットフォームのUPnPプロトコル・スタック

  • 佐藤太亮氏(来栖川電算)
    「PureJava分散データベースの開発」
    Javaによる大規模データベース管理システムを短期間で実装

 いずれも興味深い発表だったが,特に圧巻だったのが,最後の佐藤氏によるプレゼンテーション。「10TBを超えるデータを格納」「100台程度のPCグリッドで動作」「100%Pure Javaで開発」「業務特化の複雑なクエリを実行可能」「Oracle+汎用機の検索速度を超える」という要求を満たすデータベース管理システム(DBMS)を,3人の開発チームでわずか6カ月間で実装したというものだ。最初の1カ月間で「速度無視」「メモリー上のテーブルしか扱えない」「ネットワークをまたげない」「巨大なデータを扱えない」という状態のソフトを開発し,初回リリース。2週間後にディスク上のテーブルを扱えるようにし,次の2週間で分散データの検索に対応。次の2週間で巨大なデータを扱えるように改良し,以降,速度の改善を行った。DBMS自体のコードは約7万行(このうち約5万行を自動生成)で,この上で100万行以上のクエリが動作している。できあがったシステムは旧システムより高速で,顧客に大好評だったという。佐藤氏の心残りは「安売りしすぎたこと」。十数億円のコスト削減効果があったのに,開発に対して支払われたのは4000万円程度だったという。

 講演のあとには懇親会が催された。参加者は,未踏の成果のデモンストレーションやプロキューブの中川路充社長による「ビジネスとは」と題した本音ベースのプレゼンテーションなど盛りだくさんの内容を楽しんだ。