帝人の新井直樹グループ理事。環境・エネルギー分野のCMO(最高マーケティング責任者)補佐を担当する。
帝人の新井直樹グループ理事。環境・エネルギー分野のCMO(最高マーケティング責任者)補佐を担当する。
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 売上高、営業利益とも2006年3月期決算で過去最高の業績を記録した帝人は、CMO(最高マーケティング責任者)体制を強化している。今後高い成長性と収益性が期待できると判断した「自動車・航空機」「情報・エレクトロニクス」「ヘルスケア」「環境・エネルギー」の4分野に対して、1人ずつCMO補佐を置いたのである。

 さらにグローバル戦略を強化するために、グローバルマーケティング担当のCMO補佐という役職を4月に新設した。こうした一連の動きは、今年度から実行し始めた新しい中期経営計画「STEP UP 2006」を達成するのが狙いである。

 持ち株会社制を敷く帝人は、大別すると合成繊維、化成品、医薬医療、流通、IT(情報技術)の5つの事業に取り組む計170社程度の事業会社を抱えるが、それぞれが個別に顧客企業と取引するケースが目立っていた。これでは経営効率が悪いため、今後の注力分野ごとにCMO補佐を置くことによって、トヨタ自動車など特定顧客との連携強化を図る。予算や人材といった経営資源も、4つの注力分野に集中的に配分する。つまり、CMOとそれをサポートするCMO補佐は、帝人グループ各社のマーケティング戦略に“横串を刺す”役割を担うわけだ。

 帝人は2003年4月から、3カ年の中期経営計画「WING 2003」をスタート。計画の最終年度となる2006年3月期の売上高は9381億円、営業利益は768億円、当期純利益は249億円だった。WING 2003で掲げた「ROA(総資産利益率)を7.6%にする」という目標を達成し、ROAを3.3%から8.5%に引き上げることに成功している。今回のSTEP UP 2006では、2009年3月期決算でROA10%以上、売上高1兆1000億円、営業利益1000億円を目指す。

日本ではまだ少ないCMOという要職

 CMOという役職は、全社のマーケティング戦略の総責任を負う。帝人がCMO職を設置し始めたのは1998年のこと。事業の多角化に伴い、帝人の顧客企業は急増していた。そこで、CMOに顧客企業に関する情報を集約すれば、帝人の大きな武器になると判断した。例えば、CMOを介して異なる業界の情報をかけ合わせれば、新ビジネスを生み出す可能性が高まる。さらに、グループの求心力を高める役割もCMOに期待し、コーポレートブランド戦略の旗振り役を担わせてきた。

 CMOは、国や自治体、国内外の企業など多数の顧客と接する機会が多いため、外部から見ると帝人の顔というべき存在になる。帝人にはCEO(最高経営責任者)やCTO(最高技術責任者)をはじめ計8人の「CxO」が存在するが、「どのCxOの意見にも、CMOの意見が反映されている。帝人の場合は特にCMOとCTOの連携が重要だ」(環境・エネルギー担当CMO補佐の新井直樹グループ理事)という。それだけ重要な役職であるため、現在CEOを務める長島徹氏もCMOの経験を持つ。

 帝人のCMOは、 帝人ファイバー社長である唐澤 佳長専務取締役が務める。唐澤CMOは6月下旬の株主総会での承認を経て、帝人副社長に昇格する予定であるため、今後は従来以上に忙しくなる見通し。このためCMO補佐の重要性が増す。

 自動車・航空機分野担当のCMO補佐として酒井宣彦・帝人化成常務を、エレクトロニクス担当CMO補佐として戸田敬二・帝人デュポンフィルム取締役を、ヘルスケア担当CMO補佐に荒尾健太郎・帝人ファーママーケティング室長を、環境・エネルギー担当CMO補佐に新井理事を置いた。また、グローバルマーケティング担当のCMO補佐として、帝人モノフィラメントの日本、米国、ドイツ法人の社長だったトン・ルネボーン氏を任命した。

 このようにCMOという役職は、事業の多角化が進んだ企業では特に重要な役割を果たす。CMOを置く日本企業はまだ少ないものの、欧米ではCMOは珍しくはない。グローバルマーケティング担当のCMO補佐としてルネボーン氏を起用した背景には、海外企業のCMOとのやり取りを円滑にしたいという狙いもある。新井理事は、「欧米で新規に顧客企業を開拓する際、彼の人脈を活用すれば成功の確度もスピードもアップするはず」と指摘する。