富士通の黒川博昭社長(写真)は6月9日、2006年度の経営方針説明会で、「システム開発や保守・運用、ITアウトソーシングといったサービス事業の利益率をさらに向上させたい」と語った。同社のサービス事業は、2005年度(3月期)に売上高が2兆2662億円で営業利益が1379億円。売上高営業利益率は6.1%だった。2006年度は、売上高を2兆4300億円、営業利益を1600億円、売上高営業利益率は6.6%に高めることを目指す。
サービス事業の利益率を高めるために、大きく三つの施策を打つ。一つは、予算オーバーや稼働延期といったシステム開発の失敗を減らすこと。二つ目は、システム開発の生産性を高めること。三つ目は、ERPパッケージ(統合業務パッケージ)の導入やシステム運用・保守のように、個別のシステム開発よりも利益率が高いビジネスを拡大することである。
一つ目の失敗プロジェクトを減らす点については、数年前から全社展開してきたPMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)主導による不採算案件の撲滅活動を、さらに徹底する。赤字プロジェクトによる損失額は、2004年度の400億円から2005年度は100億円に減少。2006年度は50億円まで削減することを目指す。黒川社長は、「SI事業を成長させていくには、赤字になるリスクを承知で先進技術を駆使したシステムの開発を受注しなければならないようことがある。このため、赤字はゼロにはならないし、するつもりもない。だが、最終的には、損失額を30億円程度まで圧縮できると考えている」と話す。
二つ目の生産性向上については、各事業部門と独立した組織である「共通技術本部」が中心となって推進していく。2年ほど前から、システム開発の現場にトヨタ生産方式の考え方を適用したり、仕様書の記述方法を社内で統一したりするような取り組みを、さらに強化する。
三つ目の利益率が高い事業を拡大する点では、まず、ERPパッケージ(統合業務パッケージ)の導入事業を強化する。「顧客1件ごとに個別のシステム開発を請け負うようりも収益率が高まる」(黒川社長)との判断だ。システム運用・保守といった、安定的な収益が見込める事業にも力を入れていく。「運用業務を通じて、システムの機能強化案件を獲得し、さらにシステムの再構築や新システムの構築といった案件の受注につなげたい」(同)考えだ。
これら三つの施策を同時に実現するのは、そう簡単ではない。例えば、要件が曖昧なままに契約を締結してシステム開発プロジェクトをスタートさせると、「たいていは失敗する」(黒川社長)。そのため、「要件が固まりそうもなかったり、あきらかに赤字だったり、リスクが極めて高いと判断した案件は受注しない。無理に受注したら、当社が赤字になるだけでなく、最終的には顧客にも迷惑がかかるためだ」(同)という。黒川社長は、「営業担当者が断りきれない場合は、私が直接乗り出してもいい」とまで言い切る。
技術者の処遇について黒川社長は、「サービス事業の収益向上には、技術者一人ひとりが、地道な仕事を積み重ねることが不可欠。これまでは、大規模な先進システムの新規開発に携わった技術者に比べて、既存システムの保守・運用を担当する技術者の地位が低いようなことがあった。これからは、システムの安定稼働に貢献している技術者の処遇をしっかりとしていきたい」と説明した。