「CS(顧客満足度)・カイゼン活動発表会」と名付けたこの会合は、100人以上を集めて6月15日に名古屋市内のホテルで開催。87チームの予選を勝ち抜いた9チームが出場し、2005年度に取り組んだ活動内容を発表した。発表会には、稲垣嘉男社長など計14人の執行役員と監査役、親会社のトヨタファイナンシャルサービス(TFS)の尾崎英外社長らも出席した。
9チームのうち、5チームが金賞、4チームが銀賞を獲得。金賞を受賞したチームのうちいくつかは、秋から冬にTFSが開催する世界大会「Global Kaizen Award」に出場させる。同大会では、優れたカイゼン活動を実施したチームが国内外のTFSグループ各社から集う。
組織が急拡大し、カイゼン文化の定着が必須に
トヨタ自動車グループの金融事業を統括するTFS傘下の中核事業会社、トヨタファイナンスは設立が1988年11月と歴史が浅い。外部から見れば営業収益が1100億円を超す大企業だが、数年前までトヨタ自動車独自の考え方・やり方に基づく改善活動——いわゆる「カイゼン」は定着していなかった。
転機は2001年4月に訪れた。「TS CUBIC CARD」という愛称で知られるクレジットカード事業への参入だ。当時の中核事業は自動車・住宅ローンや機器リース。カード事業参入によって、顧客からの問い合わせも業務量もけた違いに増えたため、300~400社からの中途採用によって社員数を一気に5倍の1000人以上に拡大せざるを得なくなった(2006年2月末時点で1436人)。その結果、柱となる企業文化の確立と業務の効率化が緊急命題となった。そこで、「カイゼン」に取り組んだのである。
「大量の中途採用でいろいろな価値観を持った社員が混在し、会社に色がない状態になった。ところが、外部からはトヨタ自動車と重ねられ、しっかりした社風がある、きちんと改善活動をしている、と思われていた。だから、カイゼンを積極的に定着させる必要が出てきたのです」
自らも中途入社である事務企画部の中村裕成部長は、トヨタファイナンスが2003年に順次導入した3つのカイゼン施策の狙いをこう説明する。施策は「創意くふう提案制度」「カイゼン支援活動」「CHANGEプロジェクト」。2005年にカイゼン支援活動とCHANGEプロジェクトを統合し、「CS・カイゼン活動」と名付けた。事務企画部は、CS・カイゼン活動の事務局という位置付けだ。
本社・支社の各部署単位で現場チームを作る
トヨタファイナンスの社員は、創意くふう提案制度とCS・カイゼン活動の2つの施策を愚直にやり続けた。おかげで、いまや実務上の成果は枚挙にいとまがない状態だ。初年度は1164件だった日常の細かな作業に関する創意工夫の提案が、2005年度は1833件まで増えた。「ホワイトボードの書き方はこうすると分かりやすい」「プロジェクターの配線はこうすればつなぎ直しやすい」など、身の回りのちょっとした工夫を思いついた社員が個人やチームで提案する。
今回の発表会では、1833件の創意くふう提案のうち最も優れた3つの事例が紹介された。「Webサイトからの自動車ローンの申し込み案件において、登録内容に変更が必要だった場合にそれを見える化する箱を設置」「暗証番号変更に伴うカード回収の廃止」「ローン完済時にお客様に返却する契約書を入れる封筒の作成行程の見直し」である。
これに対してCS・カイゼン活動は、本社や全国7支社、東京や名古屋のコールセンターなど全社を87の部署単位に分けて取り組むものだ。部署ごとに部課長未満の一般社員だけでチームを組み、CS向上につながる年間カイゼン・テーマを1つずつ決める。業績に直結する部署の年間目標とは区別する。「お客様の立場になって現状をもっと良くしよう」と、現場のみんなが自然と考える文化をはぐくむためだ。
発表会では、九州支社営業グループの「割賦審査申込時の迅速性、正確性、利便性の向上」、サービス業務部業務㈼グループの「トヨタポイント還元業務において、不備発生の抑制と業務の効率化によるCSの向上」、名古屋カスタマーサービスセンター・ファイナンスサービスグループの「IVR(音声自動応答装置)や自社Webサイトの利便性を親切にお客様に伝える」など5チームのCS・カイゼン活動が金賞を受賞した。
実際にこうしたカイゼン・テーマを成し遂げる際は、トヨタ自動車の「カイゼン」で使う様々な手法や考え方を駆使する。それをサポートするのが事務局の役割だ。例えば、改善したい業務を担当する社員の1日の行動を分単位で測定し、それをグラフ化して、問題がどこにあるのかを「見える化」する。手待ちや運搬などお客様に付加価値を与えない「ムダ」な時間が何十分もあるようなら、そんな状態を引き起こす真因を導き出すために、「『なぜ』を何度も繰り返す」ことによって知恵をしぼり出す。
もちろんトヨタファイナンスは今後も、カイゼンの手綱を緩める気はない。「自発的で継続的な改善」というトヨタ流のカイゼン文化を社員一人ひとりまで深く根付かせるために、引き続き愚直に活動を続けていく。前出の中村部長は、カイゼン活動を続ける秘けつをこう説明する。
「トヨタ自動車グループでは、他社では『そのくらいやって当たり前だ』と言われてその場で話が終わってしまうことでも、そうはならない。身の回りのちょっとした改善が高く評価され、『どんどん続けなさい』となる。積極的に横展開して全社で共有する。特にトップがそうした意識を強く持っており、そういう発言を頻繁にする。だから、社員は新たな改善に挑もうという気持ちになる」