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『SOA大全』の著者、ディルク・クラフツィック氏
『SOA大全』の著者、ディルク・クラフツィック氏
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 SOA(サービス指向アーキテクチャ)の解説書『Enterprise SOA(邦題:SOA大全)』の著者であるディルク・クラフツィック氏が来日し、SOAの普及状況について語った。同氏は「SOAに基づいて企業システムを構築した企業は世界的にみてもまだ少ないが、その考え方は着実に広まっている」との見方を示し、「SOAの普及は、15年くらいのスパンで見守るべき」と主張する。

――SOAは「分かりづらい」という意見が相変わらず多い。

 SOAは複数の側面があるので、確かに定義しにくい。私は、少なくとも二つのポイントを押さえるべきだと考えている。

 一つはシステムの側面だ。この場合、SOAは以下のように説明できる。まず、企業システムを大きくフロントエンドとバックエンドに分け、バックエンドのシステムを独立した「サービス」という単位で分割する。その上で、サービスを複数のアプリケーションで共同利用する。このとき、すべてのアプリケーションでデータの一貫性を取れるようにする。これにより、システムの開発・運用コストを下げることができる。

 もう一つはビジネスの側面で、SOAは「ビジネス・プロセスをそのまま企業システムにマッピングすること」と説明できる。これは、ビジネス・プロセスの構成単位とサービスの大きさ(粒度)をそろえることによって可能になる。この側面によって、企業システムの歴史における長年の課題であるビジネスとITのギャップを埋めることができる。非常に大きな進歩だ。

 ただし、いま説明したような“理想的なSOA”に基づいて企業システムを構築するためには、企業内のすべての部門からの協力を得なければいけない。そこにSOAの難しさがある。

――すべての部門から協力を得るには、権限が必要だ。しかし、日本のCIO(最高情報責任者)は多くの場合、企業内で十分な権限が与えられていない。この現状についてどう思うか。

 すべての部門に協力を要請するのは、CIOの役目ではない。CEO(最高経営責任者)の責任だ。競合他社に対して優位にビジネスを進めるにはどうしたらいいか、自社のビジネスがITとシナジー効果を発揮するためにはどうすべきか、などを考えなければいけない。

――SOAを意識しているCEOは皆無に等しい。日本は遅れているということか。

 そんなに悲観する必要はない。世界的にみても、SOAに基づくシステム構築が明確に始まっているとは言いにくい。『Enterprise SOA』に続く『Legacy-to-SOA』を執筆するために、世界中の企業を見て回ったが、おおむね状況は日本と同じだ。「SOAに基づいたシステムを構築した」と喧伝している企業が、実は単にWebサービスを使ってシステム連携しただけに過ぎない、という例も珍しくない。

 理想的なSOAを実現している企業は、世界でも限られている。最近では、フランス最大手の生命保険会社であるCNP保険が、SOAに基づいてシステムを構築した好例だ。CEOが強くプロジェクトに関与し、全体のマネジメントを担当している。『Legacy-to-SOA』には、CNP保険のような事例を10~15社掲載する予定だ。

――それにしてもSOAが普及するペースは遅いように思えるが。

 そんなことはない。私がSOAについて意識し始めたのは1999年。そのときは誰も知らなかったし、私もSOAという言葉は使っていなかった。

 転機は、2004年に独SAPがサービス指向を訴え始めてからだ。それから2年経ち、ゆっくりではあるが、注意深く話を聞くユーザー企業が登場し始めた。それが着実に広まりつつあり、現段階で遅いというのは早計だ。SOAはアーキテクチャの転換なので、15年くらいのスパンで考える必要がある。

――それは長すぎるのではないか。すでにSOAというキーワードは存在感を弱めているように思える。

 ドイツでもその傾向はある。概論的なセミナーの集客はピークを超えてきている。しかし、成功事例など特定の分野に絞ったセミナーは今でも盛況だ。ユーザー企業が選別されてきたということではないだろうか。