東京都内で7月19日に開催された「サービス指向アーキテクチャ(SOA)サミット2006」(主催はガートナージャパン)で,出光興産・情報システム部システム総合研究所情報技術課の澤井隆慶氏が壇上に立ち「日常の意識変革によるビジネス・スピード重視のIT基盤づくり」と題した講演を行った。澤井氏は出光興産とグループ各社のIT(情報技術)化を担い,ITシステムがアーキテクチャの面で適正かどうかを検証する役割を果たしている。講演内容を要約・抜粋する。
現在,出光興産は,ホスト・コンピュータで稼働している基幹情報システムを全面再構築中だ。多くの再構築プロジェクトが動いている。
再構築に当たってのテーマの一つは「基幹情報システムの変化対応力向上」。ホスト・コンピュータで運用しているシステムは,長年の度重なる変更があって,新たに手を加えようとすると,たくさんの工数と期間が必要になる。これを解決したい。
石油業界はかつて,業界への新規参入を一部制限する法律「特定石油製品輸入暫定措置法」で保護されてきた。しかし1996年に同法が撤廃となり,石油業界は完全自由化された。当時,120円から130円くらいのガソリンが一気に100円程度までに落ちたと思う。価格競争が激しくなり,無駄を取り除く必要があった。業界再編も進み,12社あった石油元売り業者は4グループに集約された。その中で出光興産だけが独自路線を歩んでいる。
競争に打ち勝つため「変化対応力の高い」システムを
この変化に対応するため,2000年ころから出光ではさまざまな事業構造改革を始めている。その際に,システムの変化が追い付かないから事業構造改革ができない,という事態があってはならない。そこで,この2~3年で全面的にシステムを再構築するという意思決定を行った。
多くの議論を重ね,基幹情報システムの変化対応力を落としている原因は二つあるとの結論に達した。一つ目は「コンピュータ資源の省力化」を最優先したアーキテクチャを採っていたこと。二つ目は「追加変更時のアーキテクチャの不在」だ。
一つ目から説明すると,I/O(入出力装置)やCPUの利用を省力化するため,多くのデータを一カ所に集めていた。こうすればI/OやCPUをなるべく使わなくて済む。データ連携についても,受注データや出荷データなどをひとまとめにして,夜間に送信していた。
ハードウエアが高価だった時代はなるべくコンピュータ資源を使わない設計が正しかった。ネットワークの信頼性が乏しかった時代は何度も送信するよりも,まとめて一回で送信する方法が正しかった。
だがこのような方法だと,例えば,受注の情報を変えなければならないときに,出荷や在庫のデータ送信にも影響を及ぼしてしまう。また,それらを扱うプログラムにも手を入れなければならない。これでは変化に柔軟に対応することはできない。
ファイルをコピペするようにシステムを追加していた
二つ目は次のようなことだ。システムの追加変更が難しい構造だと,システムには手を入れず,“システムの外付け”で追加変更に対応してしまう。システムの外付けとは,ファイルを“コピペ”するみたいに,システムをコピー&ペースすることだ。
コピペを続けると,似たようなデータや似たようなプログラムが散在する。散在すると,一つの構造を修正する必要があるときに,多くの似たようなデータや似たようなプログラムに手を入れなければならなくなる。
進行中の再構築プロジェクトではこういった事態が発生しないように,インフラ,データ,アプリケーションといったレイヤーでアーキテクチャはどうあるべきかを検討している。その結果,アプリケーションの連携部分では「ESB」(エンタープライズ・サービス・バス)を利用するのが良いという結論に達した。
変化対応力のあるアプリケーション構造とは「ビジネス・ニーズが起こったときに,アプリケーションのどこを変更すれば良いかがすぐに分かって,変更する工数も少ないもの」だ。似たようなデータや処理が散在してはいけないし,同じ処理は一カ所で行われる。同じデータは“ここ”にしかない。いわゆる「One Fact,One Place」の実現が重要である。