1990年代半ばのインターネット時代の本格的な幕開けとともに、急成長を遂げた米デル。現在では、世界最大のパソコンメーカーの地位に君臨している。デルといえば、リアルな店舗ではほとんど売らずに、インターネットや電話を使ったダイレクト販売に注力していることで有名だ。在庫リスクを極力抑えた受注生産方式を武器に、高機能なパソコンを低価格で提供してきた。同社で2005年からCIO(最高情報責任者)を務めるスーザン・シェスキー副社長に、この世界最先端のIT企業におけるCIOやIT部門の担当者に求められる能力や役割などについて語ってもらった。
編集:日経情報ストラテジー・杉山泰一
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米デルのスーザン・シェスキー副社長兼CIO |
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デルはIT(情報技術)を商品としている企業なので、そのCIOの立場は、ITをユーザーとして活用する一般企業のCIOとは違う。
顧客企業はデルに対し、eコマース、サプライチェーン、製品開発などありとあらゆる側面についてソリューションを求めてくる。従ってCIOは、デルの業務のあらゆる側面について精通していなければならない。デルが提供しようとするソリューションについて、顧客から「実際、デル社内ではどう使われているのか」と必ず聞かれるからだ。
続いてデルの技術思想、すなわち「標準化した技術を用い、需要に合わせて拡張する」という標準化技術の思想にも精通していなければならない。
昨年、私は顧客企業約500社と個別に会い、またデル主催のイベントでも招待した顧客にデル社内の実例を説明した。現在デル社内のITの95%は、デルの技術でまかなわれている。要するに、デルのCIOは顧客企業にとって「最良の参考情報」であり、「生きた実例」ということになる。
コマースで「最先端の実例」の地位を保つ
その顧客企業が大いに関心を寄せ、従って我々ITチームも常に「最先端の実例」の地位を保っていなければならない分野がいくつかある。最右翼がeコマースだ。
デルはウェブベースの技術を12年前から使っているアーリーアダプター(製品ライフサイクルの初期から使用する“進歩派”)だ。技術の動向に合わせて開発し直し、最近では約3年前に米マイクロソフトと緊密に連携して、同社のウェブ技術「ドットネット」を採用した。
デルのeコマースサイトには直近の四半期で世界中から4億2000万人が訪問して、1億3000万人が商品を購入した。ダウンロードされたページ数は32億に上る。これらはすべて販売、サービス、製品に関する顧客経験の集積だ。顧客の望む顧客経験を提供するため、私の予算では今年6000万ドル(約70億円)、デル全体では1億ドル(約116億円)を投じる予定だ。このほか生産性向上、コストダウン、製品開発についても顧客企業の関心は高く、従ってこれらも我々社内ITチームが注力する分野になる。
世界中から最優秀人材を集め、キャリアを高める組織に
デルには34カ国・地域に約5000人のITスタッフがいる。これらの人材を地域ごとに「リーダー」が束ねて、その上にCIOが位置する。これらITチーム全体を通じて、私は3つの目標を持っている。まず第1に、デルの事業について、事業部以上に理解を深める。例えば、営業をサポートするITスタッフであれば、顧客からの電話がどのようにかかってくるか体験し、熟知してほしい。これがなければいくら技術の知識があってもビジネスプロセスは改善できないからだ。
第2に、デルの製品・サービスを完全に使いこなすこと。顧客企業に「最良の参考情報」を提供すると同時に、当社の開発サイドにもユーザーとして改良案をフィードバックするためだ。そして第3に、世界で最優秀の人材を集め、彼らのキャリアを進歩させられるようなIT組織を作ることだ。
「標準化技術」のアーリーアダプターとして、ITチームには「今後どのような技術分野が企業にとって重要になるか」という問いが数多く寄せられる。多方面にわたるため一言では答えにくいが、代表例を挙げると、グリッドコンピューティング、仮想化技術、データセンターの3つになる。
グリッドコンピューティングの場合、当社には既に欧州で成功例がある。米サン・マイクロシステムズ製のサーバー上にUNIX対応の応用ソフトを走らせる独自技術ベースのシステムから、米インテル製チップ内蔵のデル製サーバーをグリッド化して米オラクルの応用ソフトを走らせる「標準化技術ベース」のシステムに切り替えたのだ。これで、スピードは約3倍に上昇、対応可能なユーザー数も2倍になり、コストも大幅に下がった。プリンター関連消耗品の翌日配達という新サービスも、この切り替えによって可能になった。
一方、仮想化技術については、当社では今後半年から1年以内に、開発部門に導入される。データセンターの場合、5年以内にはデル製品を使った標準化技術が主流になると見ている。
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