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パルテノン神殿の映像を使い,照明技術について説明するDebevec氏
パルテノン神殿の映像を使い,照明技術について説明するDebevec氏
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 「私が開発した映像技術を使い,異業種の専門家たちとコラボレーションしながら,映画という『感動』を作ることは大きな喜びだ」。

 8月29日,東京・三田の慶應義塾大学で開催された第5回DMC国際シンポジウムで,映画「マトリックス」の映像技術で知られる,南カリフォルニア大学クリエイティブテクノロジ研究所エグゼクティブプロデューサのPaul Debevec氏がインターネットを通じてロスアンジェルスから講演した。映像技術開発の裏側を明かすと共に,大学と産業界の協業について言及した。

 Debevec氏は,Image-Based Modeling and Renderingと呼ばれる,高いダイナミックレンジの写真を使ってリアルな3次元CGを合成する技術を開発した人物。建築物や景色などを様々な角度から写真に撮り,写真から対象の幾何学構造を解析して3次元CGを合成する。さらに合成したCGに写真を貼り付けてリアリティーを高めるという技術だ。

 この技術に目を付けたのが,ハリウッドの映画製作会社である。実際のカメラワークでは撮影不可能な映像もこの技術を使えば実現できる。99年公開の「マトリックス」において初めてこの手法が採用され,話題になったことは記憶に新しい。その後も,「スパイダーマン 2」,「スーパーマン リターンズ」,「キングコング」などの映画作品に,Debevec氏の技術が採用されている。

 Debevec氏の興味の原点は,デジタル技術と芸術の融合にある。同氏が手がけた仕事の中に,印象派の画家モネが1896年に描いた絵画「ルーアン大聖堂」を,当時の様子のまま現代の映像として再現したものがある。実際にフランスのルーアン大聖堂を訪れ,まる3日間,様々な角度から写真を撮り続けたという。この何百枚という写真をベースに「モネが100年前に見たままのルーアン大聖堂」を甦らせた。

 また,最近取り組んでいる照明技術の成果として,ギリシャのパルテノン神殿をモチーフにした映像作品が披露された。明暗の異なる複数の写真を合成してダイナミックレンジを拡大し,どの角度から見ても,どのような背景を設定しても,常にリアルな映像が合成できるという技術である。

 この映像は芸術作品としての完成度も高い。パルテノン神殿の彫刻の一部が運び出され,大英博物館に収蔵されているという事実を背景に,神殿の彫刻が博物館にいる彫刻を呼び覚ますという幻想的なストーリーが,美しい音楽とともに綴られている。実写とCGとを巧みに交錯させながら,現代から過去へと遡り,古代ギリシャのパルテノン神殿を再現した。

 「大学と産業界の協業には様々なチャンスがあり,進んで取り組むべきだ」とDebevec氏は言う。大学が新技術のプロトタイプを作っているスタジオに,メディア業界の関係者を招き,実際の制作に使ったり,議論したりする。そうした交流の中から協業の形が生まれてくるという。ビジネスチャンスがテクノロジーの原動力になることを実証したDebevec氏だけに,その言葉には説得力がある。