9月15日,ネット証券大手のカブドットコム証券が「kabu.comPTS」を開始した。PTSとは,「私設取引システム」のこと。言うなれば証券会社が“ミニ証券取引所”を設立できる仕組みで,米国ではPTSが証券取引所を脅かすほどの勢いで伸びている。日本では今年に入ってから,カブドットコム証券だけでなく,SBIイー・トレード証券や楽天証券による5社連合,松井証券など主要ネット証券会社が相次ぎPTSの開設に名乗りを上げている。
PTSは夜間取引など新たな株取引サービスを可能にする。各社が開設するPTSは,日本にどんなインパクトをもたらすのか。金融とITに詳しい,金融ビジネスアンドテクノロジー代表の島田直貴氏は,「PTSは,証券取引所を補完し,新たな金融サービスの生態系を創り出す」と語る。
東証をはじめとする証券取引所はその公共性から,業務の確実な執行,透明性,公平性といった運用ルールの徹底に集中せざるを得ない。だから新しい取り組みにはどうしても遅れてしまう。もちろんPTSでも,これらについて一定レベルの品質は求められている。
「だがPTSは証券取引所より小回りが効く。このため,顧客のニーズに応じてさまざまなサービスを実装可能だ」(島田氏)。例えば夜間など証券取引所のオープン時間外の取引を可能にするのは,既存の証券取引所に対する代表的な差異化策と言える。
今後,各社のPTSはさらなる差異化策として,「オークション方式だけでなく,クオート・ドリブン方式など多様な取引手法を提供するようになるだろう」と島田氏は見る。オークション方式は,売りと買いの需給関係によって約定価格が変動していく方式で,証券取引所で採用しているもの。カブドットコム証券は,PTSに初めてオークション方式を採り入れたことで注目を浴びている(注1)。SBIイー・トレード証券などが開くPTSもオークション方式を採用する予定だ。これに対しクオート・ドリブン方式は,証券業者が提示する呼び値(気配値)に基づいて取引を成立させる方式。取引量が比較的に少ない銘柄に向いているもので,ジャスダック証券取引所などで採用されている。
島田氏は,「新株の募集など,将来はPTSでさまざまな派生サービスが始まるだろう」とも予想する。「証券は金融サービスの中で特に可能性のある分野。PTSはその足回りの良さを生かして,金融サービスの幅と裾野を広げる重要な役割を果たす。証券取引所を置き換えることはないが,少なくとも自己変革を促す。結果としてPTSは,金融サービスが本当の顧客指向,サービス業に変わるきっかけを作っていく」(島田氏)。
だからこそPTSを支える情報システムには,信頼性や可能性はもちろん,柔軟性や拡張性が重要になる。島田氏は「プログラム売買への対応,海外株など,システムが多様な取引へのニーズに応えられるかどうかがPTSの勝敗を決める」とPTSにおけるITの重要性を説く。
(注1)マネックス証券は2001年から夜間取引サービスを可能にするPTS,「マネックスナイター」を運営している。ただしその取引方式は当日の終値に一本化し,需給関係による価格変動は取り込まない