![]() オリンパスの百武鉄雄コーポレートセンター人事部 人事グループグループリーダー |
オリンパスは、社内フリーエージェント(FA)制度の利用を活性化すべく、制度の啓もう活動に乗り出している。同社では既に社内公募制度が積極的に活用されており、約6500人の社員のうち50~60人程度が毎年この制度で異動してきた。しかし、「今後はFA制度をメインにして、公募制度はそれを補完する制度という位置付けにする」(コーポレートセンター人事部人事グループの百武鉄雄グループリーダー)。
FA制度を利用するためには、グループウエア上にある異動申請書「キャリアプランカード」を上司に提出した後、10年先までのキャリアプランについて面談。その際にFA制度を利用したいと申告する必要がある。ところが、これまでは忙しい職場だとカードについての説明も活用も積極的ではなかった。中途採用者や新入社員の中にはカードの存在すら知らない者もいた。そこでこの4月から、カードの利用をすべての部署で徹底してもらったのだ。
オリンパスの社内公募制度「求人型チャレンジシステム」は、1990年度に導入された。社内FA制度の「求職型チャレンジシステム」は2002年度に導入したばかり。今年度が4年目だ。「公募制度のほうが社内での認知度が高いうえ、気軽に利用しやすいので、FAよりも公募制度を利用する社員が多い」(百武グループリーダー)。昨年度にFA制度で異動した社員は十数人。今年度は20人程度がFA権を取得した。
オリンパス人事部がFA制度をメインにしたいと考える理由は、「公募制度では、応募したことを上司に知られずに済む。だから社員は気軽に利用できる。しかし、自分のキャリアプランについて普段から上司とちゃんとコミュニケーションをとってもらいたい。それに、突然異動を告げられると、部下を他部署に出す側の上司はいい気持ちがしない」という点にある。FA制度を利用した社員からは、「上司の許可を得ているので異動したい部署の情報を収集しやすく、異動後のミスマッチ防止に役立つ」という声も挙がっている。
理由はもう1つある。1998年度に成果主義型の評価制度を導入して以来、部長や課長が短期的な成果を求める傾向が強くなり、部下を長期的に育成する視点が軽くなりがちだったのだ。同社では30歳くらいで役職者となるが、これ以降は成果を出さないと昇格も昇給もない。オリンパス人事部は、「FA制度の利用を活性化させれば、部下のキャリアプランを今まで以上に真剣に考える上長が増える」と見る。
公募制度は毎年4月と10月に実施。人材を増員・補強したいと考える部署が、グループウエアを使って社内に公募を出す。まず書類選考を行い、人事部と公募を出した部署による面接を経て、合格者は半年後の10月や4月に異動できる。異動時期を10月と4月にしたのは、通常のローテーション人事も同じタイミングで実施するため、各部署の人員数の調整をしやすいからだ。公募への応募資格は、新人や中途入社して3年たっていない者を除けば、現職で1年以上業務を遂行すれば得られる。
一方、社員がFA制度を利用するためには、最初に直属の上司の許可を得る必要がある。4月にグループウエアを使ってキャリアプランカードを上司へ提出し、面談する。ここで異動の許可を得たら、求職者データベースに登録され、6月に社内に公開される。各職場の長がこのデータベースを見て、欲しい人材がいればアプローチする仕組みだ。また、1人の社員の異動希望を2年続けて却下した上司は、人事部からヒアリングを受ける。
ただしこのFA制度では、せっかく上司から異動の許可をもらって求職者データベースに登録してもらったとしても、他部署の上司からまったく声がかからないケースもあるという。また、公募制度を廃止してFA制度だけにしてしまうと、いくら人事部が監視していても優秀な人材を必要以上に抱え込みたがる上司が出てくる。だから、社員一人ひとりが自分の意志で自分のキャリアを築けるチャンスを広げるために、公募制度を残す必要があるのだ。
公募にしろFAにしろ、オリンパスの導入目的は、「会社が人材を100%掌握することはできない。だから、高い志を持ったやる気のある人材にはやりたい仕事をさせたい」という点にある。「会社全体でFAや公募の利用が活性化していけば、各部門長は自分の職場をより魅力的なものにしようとするし、社員もより魅力的な人材になろうと努力する」と百武グループリーダーは2つの制度のメリットを説明する。