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マイクロソフト リサーチ アジアのハリー・シャム所長
マイクロソフト リサーチ アジアのハリー・シャム所長
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 米マイクロソフトが持つ研究組織のアジア部門「マイクロソフト リサーチ アジア(MSRA)」所長ハリー・シャム氏(写真)に、MSRAの研究開発や産学連携施策を聞いた。1998年に設立されたMSRAは、アジア太平洋地域におけるマイクロソフトの基礎研究部門である。同時に、日本の大学と米マイクロソフトの共同研究プロジェクトの拠点でもある。マイクロソフトは2005年7月、日本の大学との共同研究推進組織「マイクロソフト産学連携研究機構」(IJARC)を設立した。マイクロソフトが資金を援助し、2年程度の共同研究を実施する。

日本の大学との連携、もっと進めたい
 シャム所長によれば、マイクロソフトが大学と連携して共同研究をするのは、日本が初めて。東京大学や大阪大学、早稲田大学などが参加して、コンピュータ・グラフィックスやユーザー・インタフェース、セキュリティなど、八つの研究プロジェクトを実施中だ。MSRAが日本の大学からのインターンを受け入れる形で、プロジェクトを進めている。

 シャム所長は、日本の大学に期待する研究分野として、家電とロボット工学を挙げた。家電は「日本が世界をリードする分野。今では腕時計の中にさえ、一昔前の大型コンピュータをはるかに上回る性能のコンピュータが入っている。こうしたコンピュータの演算能力を活用し、あらゆる機器を連携動作させるためのプラットフォームを実現する」ことが狙いである。一方のロボット工学については、「高齢者向けの介護ロボットなど、今後は一般消費者の家庭生活を支援するためロボットとソフトウエアのより高度な連携が必要になる」(シャム所長)。マイクロソフト社内でもロボット工学分野の研究プロジェクトが始まっているという。

 IJARCでは12月1日まで、家電やロボット工学、組み込みシステムなどの分野で、新たな研究プロジェクトを募集した。採択件数は10件程度。来春にも、採択したプロジェクトを発表する見込みだ。1年当たり300万~500万円程度の資金を援助する計画である。

 現在、日本の大学では、情報工学やコンピュータ・サイエンスといった研究分野に対する学生の人気が低かったり、高度なIT技術者育成に向けた教育体制が不足しているなどの問題を抱えている。シャム所長は「日本の学生のレベルが低いとは思わない。私の研究チームにも、日本人の大学生がいるが、マサチューセッツ工科大学(MIT)やカーネギーメロン大学(CMU)、中国の清華大学などの卒業生と比べても遜色はない」として、日本の大学や学生への期待を示した。

 その一方で、「コンピュータ・サイエンスやソフトウエア工学教育に関する世界トップレベルの大学は、未だにMITやCMUである。これは認めざるを得ない」とも述べた。日本や中国の大学が追いつくには、「これら先進的な大学ともっと協力して、より積極的に人的交流や共同研究を推し進める必要があるだろう」(同)。

「検索バトル」は始まったばかり
 MSRAでは、主要な分野の一つとして検索技術の研究を進めている。MSRAの約300人の研究者のうち、3分の1が検索技術の研究に携わっている。MSRAの中でも最大のグループだという。

 検索技術はマイクロソフトが、最も研究に力を注いでいる分野だ。マイクロソフトはソフトウエアのライセンス販売に加えて、ネット・サービスの拡充と、それに伴う広告による収益増を狙っている。こうしたビジネス・モデルの中心になるのが検索技術だ。しかし現在、マイクロソフトの検索サービスはGoogleやYahoo!に差を広げられつつあるなど、ライバルの後塵を拝している(関連記事)。

 シャム所長は「検索技術研究の歴史はまだ浅く、戦いはまだ始まったばかりだ。検索技術やそれを活用したサービスには、まだまだ進化の余地がある」と話す。

 MSRAでは、特定分野向けの検索「バーティカル・サーチ」と、個人の検索履歴やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での友人関係などを使う「パーソナライズ・サーチ」の2分野を、重点的に研究しているという。「いかに少ない検索キーワードで、ユーザーの意図を正確に推測できるかが、今後の検索技術の鍵になる。マイクロソフトが検索技術を本格的に研究し始めたのは競合他社に比べて遅かったが、我々は全力で検索技術の研究に取り組んでいる」(シャム所長)。