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脳科学者で、ソニーコンピュータサイエンス研究所のシニアリサーチャーを務める茂木健一郎氏。冗談を織り交ぜながらの講演に会場はたびたび沸いた
脳科学者で、ソニーコンピュータサイエンス研究所のシニアリサーチャーを務める茂木健一郎氏。冗談を織り交ぜながらの講演に会場はたびたび沸いた
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「家電 2.0」を考える上でキーとなる「偶有性」
「家電 2.0」を考える上でキーとなる「偶有性」
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 人を引きつけるテクノロジーとは何かを考える上で、GoogleやYouTubeはとても示唆的だ――。脳科学者で、ソニーコンピュータサイエンス研究所のシニアリサーチャーを務める茂木健一郎氏は2007年3月12日、電子情報技術産業協会(JEITA)が開催した「デジタル家電セミナー2007」で講演した。「インターネットによって家電はさま変わりした。家電 2.0ともいっていいほどの変化だ。従来の家電の評価基準と全く異なる何かが求められる」(茂木氏)とし、「Google」や「YouTube」が持つ「偶有性」と呼ばれる性質をキーワードに、今後のデジタル家電の方向性を示してみせた。

 偶有性とは「半ば規則的で半ば偶然の出来事」(茂木氏)を表現する言葉で、ある程度は予想できるが予想できない部分もある、という性質を指す。これが、人を引きつける上で重要な要素になると茂木氏は語る。未知の要素が全くないと人は飽きてしまうし、新しすぎて全く予想もできないものはどんなものか想像ができず、飛びつきようがないからだ。例えば居酒屋で何時間も仲間と会話に熱中できるのは、会話というものが偶有性に満ちているからにほかならない。テレビドラマ「水戸黄門」が長年支持されるのは、印籠(いんろう)という定番のアイテムと、毎回変化するストーリーの組み合わせの妙による。IP電話にしても、技術的にはIPによるデータ通信に音声を載せるという新しいものだが「電話というメタファー(隠喩:いんゆ)を使うことで、それがどのようなものか、ユーザーが想像できる」(茂木氏)ことが普及につながった。

 茂木氏によれば、インターネットの本質は偶有性である。冒頭のGoogleやYouTubeはその好例だ。Googleのトップページは「これまでのWebデザイナーの神経を逆なでするかのような、“何もしていない”デザイン」(茂木氏)だが、ユーザーはこぞってGoogleを使う。それは、トップページのデザインにユーザーが何かを求めているわけではないからだ。キーワードを入力して検索ボタンを押すという行為を通じて、自分が求めていた、でもこれまで知らなかった情報に出会えることこそが重要なのである。つまり「トップページに重い動画を置くことは、インターネットの本質とは関係ない。せっかくお金をかけてページを作り込んでも、かえってダサく見えてしまう」(茂木氏)。

 同じく、画質の粗さにもかかわらず高い人気を誇るのがYouTube。これが支持されるのも、自分で検索、探索できるという偶有性の喜びが得られるためだ。ユーザー自身がコメントやタグ、評価を付与できるという能動性が、さらに喜びを増加させる。国内のサービスでは、若者に人気の「モバゲータウン」も、偶有性をうまく利用している例だという。

 今後のデジタル家電が、インターネット抜きで考えられないのは明らか。つまり、「カギを握るのは、偶有性の設計。予想できるものとできないものをいかに混ぜるか、が重要になる」(茂木氏)。薄型テレビなどは高画質の追求を続けているが、これとは別に偶有性についても真剣に取り組むべきだと茂木氏はいう。ハードウエアの製造という日本の強みに偶有性の設計をうまく取り入れていくことこそが、今後の日本のデジタル家電が伸びる道だと述べた。

 また未来技術の開発でよくいわれる「人間の脳に学べ」というテーマについては、必ずしもその必要はないと説いた。脳に関してはさまざまな研究が行われているが、まだまだ謎は解き明かされていない。一昔前に盛り上がった古典的な人工知能(AI)では人間の知性は実現できないことがはっきりしており、これを超えるための研究開発が進んでいる。しかし「実は当座の主戦場は古典的なAI」(茂木氏)。圧倒的な人気を誇る検索エンジンGoogleが古典的なAIを用いて開発されていることなどを挙げ、下手に脳に学ぼうとする必要はないと説明した。これからのデジタル家電は、脳を人工的に再現することよりも、人間の脳を前提にしてそれをいかに補完するか、人間の脳は何を嬉しいと感じるか、などを考えていくことが重要だと語った。