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Si基板の表面に,SrRuやCe,Y-Zrの酸化物から成る3層の中間層を形成。その上にPZT単結晶膜を形成することで伝播損失の少ない強誘電体膜を実現した
Si基板の表面に,SrRuやCe,Y-Zrの酸化物から成る3層の中間層を形成。その上にPZT単結晶膜を形成することで伝播損失の少ない強誘電体膜を実現した
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 東京工業大学と富士通研究所は3月29日,Si基板上の光学結晶膜に赤外光を伝播させる実験に成功したと発表した。Si基板上に,伝播損失の少ない強誘電体PZTの単結晶膜を形成する技術を開発,光変調器などの光デバイスとシリコンLSIとを一体化した超小型の光通信デバイスの実現へ道を拓いた。

 現在実用化している光通信デバイスは,光信号を処理するデバイスと,電気信号を処理するシリコンLSIによるデバイスとを別々に製造し,組み合わせている。この2種類のデバイスをSi基板上に一体形成できれば,さらに小型,低価格な光通信デバイスが実現する。

 Si基板上に光スイッチや変調器などの光信号デバイスを実現するには,強誘電体であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの高い電気光学効果(電圧を加えると屈折率が変化する性質)を持つ材料を基板上に形成し,そこに光を伝播させる必要がある。しかし従来,Si基板上に直接PZTの単結晶膜を形成すると,結晶の乱れによる伝播損失が大きく,光を伝播させることは困難だった。

 今回,Si基板の表面に,SrRuやCe,Y-Zrの酸化物から成る248nmの薄い中間層を形成し,その上に10μmのPZT単結晶膜を形成した(図)。これによって,PZTとSiとの反応や原子配列の乱れを抑え,伝播損失の少ない強誘電体PZTの単結晶膜を実現した。

 開発したPZTの単結晶膜について,光通信で用いられる波長(1.55μm)の赤外光を伝搬させたところ,伝播損失が従来の約10分の1の1dB/cm以下に抑えることができたという。一方,電気光学効果の大きさを表す電気光学定数は,赤外光の実験で76pm/Vを確認。この数値は,現在,光変調器として一般に使用されているニオブ酸リチウム単結晶よりも約3倍高い電気光学特性である。

 今後は,開発した結晶成長技術を利用し,光デバイスをシリコン基板上に形成する技術開発に取り組んでいく。