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図●高度IIT人材の具体像の可視化、共有化
図●高度IIT人材の具体像の可視化、共有化
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 IT人材の育成、あるいは自律的成長を図るために、情報処理技術者試験やITスキル標準をどのように改革、活用、連携させるべきか--。

 こんな問題意識のもと、(1)情報処理技術者試験の意義・役割(官民の役割分担)、(2)試験制度改革のあり方、(3)ITSSと試験の整合性確保、(4)3つのスキル標準(ITSS、ETSS、UISS)の整合性確保、(5)産学官連携施策のあり方、という5項目の議論を進めてきた経済産業省の委員会、IT人材育成ワーキンググループ(WG)の最終報告案が、まとまった。5月21日までの予定で、現在、
パブリックコメントを募集している

 最終報告案における具体的施策は、全5項目から成る。第1は上記の議論の(1)から(4)に関連するもので、「高度IT人材像の可視化・共有化」と題された、新たな人材像だ。具体的には、基本戦略系(マーケッター、ストラテジスト)、ソリューション系(システムアーキテクト、プロジェクトマネジャー、テクニカルスペシャリストなど5類型)、クリエーション系(クリエータ)、その他(エデュケーション)という4つの人材像と、9つの人材類型を設定。そこに3つのスキル標準で規定された職種をマッピングしている。これによってかなり強引だが、ITSS、ETSS、UISSの整合性を確保し、同時に3つのスキル標準と“新しい情報処理技術者試験(後述)”の関連を明確にした(図)。

 この図を見ると、既存の3つのスキル標準を廃して、新たな人材モデルとスキル基準からなる「新スキル標準」を策定するようにも思えるが、それは正しくない。経産省によれば「この図で示した人材像は将来のあるべき姿であり、いわば“to be”。現行の3つのスキル標準をそれぞれ見直したり、強化する中で、このto beを意識してスキル標準相互の連携や試験制度との関連づけを図っていきたい」という。言い換えれば、試験制度の改革やスキル標準の整合性を確保するための“議論のたたき台”という位置づけだ。

 第2の施策が、「実践的かつ先端的な人材育成手法の確立、実践」。ソフトウエア開発・管理手法の確立普及と、実践的教育システムの構築という2項目から成るが、前者は「ソフトウエア工学やモデル化技術が重要」といった提言にとどまる。より重要なのは後者。情報処理学会が作成中の新カリキュラム「J07」を意識し、これに基づく授業を受けた人材(学生)には「新しい情報処理技術者試験の一部を免除することを検討」というインセンティブを付与する。冒頭の5項目の中では、(5)に相当する。また海外の情報工学系の大学で取り入れられている、いわゆるダブルメジャー(ITと経営、ITと医療など複数の分野の知識を取得すること)の促進もうたっている。

 第3は「客観性の高い人材評価メカニズムの構築」。ここで新しい情報処理技術者試験制度とスキル標準の関わりを明確にした。まず(1)既存の初級システムアドミニストレータ(AD)試験をエントリ試験、(2)既存の基本情報技術者試験を基礎試験、(3)既存のソフトウエア開発技術者試験をミドル試験、(4)プロジェクトマネージャ試験など、それ以上の試験を高度試験という風に改名。同時にエントリからミドル試験の合格者を、それぞれスキル標準の1~3レベルの人材相当と認定できるように改組する。一方、(4)の高度試験の合格者は、レベル4とは認められず、実務経験を加味して判断する。なおレベル5以上と見られる人材の認定に関しては、「ハイエンドの人同士のピア・レビューによる」といった言及はあるものの、それ以上のことは決まっていない。

 試験の中で、改組、つまり見直しが大きいと見られるのがエントリ試験。これまでの紙による試験ではなく、CBT(コンピュータ・ベースド・テスティング)になり、また単純な合否ではなく、点数制になる予定である。高度試験も、知識項目ごとに出題を整理分類するなど大幅に改組される。これまではプロマネやセキュリティ担当者など人材像ごとに試験問題を作っていたのを、例えばプロマネなら「ITに関してはAとB、管理技術に関してはCの知識を出題する」という具合に、知識項目を組み合わて出題できるようにする。少し分かりにくいが、試験問題作成の負荷を軽減すると同時に、プロマネでAの項目に合格していれば、セキュリティ関連の試験を受ける際に、Aの項目を受験する必要がなくなる利点がある。新たな試験制度は2008年秋から実施される予定だ。

 具体的施策の4番目は、「我が国発の人材育成・評価システムの国際展開」。試験制度の国際展開(主にアジア諸国を対象)、技術者認証の国際的議論への参加(英米がリードしている議論)、そして英語で授業を行う高度IT人材育成機関の創設の検討、などが挙げられている。この関連でエントリ試験にとどまらず、上位の試験のCBT化を検討する。最後は、以上の施策を今後、実際に推進したり、新たな施策を検討する組織の設置をうたった「高度IT人材育成のための推進体制づくり」だ。今夏をメドに、産官学の有識者からなる協議会を設置する。

 並行して、各職種の人材が構成する自律的な組織、プロフェッショナル・コミュニティの設置、活動支援も行う。「シンガポールでは、IT企業が構成する業界団体ではなく、自律したプロ同士が集まったコミュニティ活動が活発。日本でも、同様の形態になって欲しいし、そういう活動を支援したい」(経産省)。

 以上が最終報告案の具体的施策の骨子だが、実は最終報告案は全5章構成。第1章はIT人材を巡る構造変化(企業経営に占めるITの役割の高度化、個別開発からモジュール化への流れ、SAASの登場など)、第2章は世界のIT産業の戦略(米国や英国、インドなどの施策)、第3章は我が国の現状、第4章は高度IT人材(像)、そして第5章が、ここまで見てきた高度IT人材育成に向けた具体的施策、となっている。1章から4章までを費やして、IT人材育成を巡る国内外の問題を整理し、その上で問題を解決する施策を5章で提言する構成である。参考になる情報もあるので、1~4章にも、ぜひ目を通していただきたい。

 一方、積み残しになった課題や現実にうまく動くかといった課題もある。その一つが、情報処理技術者試験の更新制度や資格化、政府調達案件における要件化などである。「変化の早いIT産業で5年前、あるいは10年前の試験に合格したことに、どれだけの意味があるのか」といったことから議論の俎上に上った更新制度は、「(人材)登録システムの構築を検討」、「希望者に成績を記録したICカードの発行を検討」というところに落ち着いた。事実上の先送りと言える。

 また資格化は、「セキュリティやシステムの信頼性に関わる一部試験について、将来の資格化を念頭に置きつつ、政府調達におけるガイドラインに推奨職種として規定することなどにより、実質的な資格化を推進する」と微妙なニュアンスにとどまった。政府調達案件の受託企業がスキルレベルや合格者数を明示することは、見送られた。

 こう見てくると実質的に決まったのは、産官学協議会の設置と試験制度の見直しぐらい。多くの課題や議論--例えば3つのスキル標準の整合性を誰がどのように実現し,to beにつなげていくかなど--は、産官学協議会に委ねられる。加えて試験制度にしても、本当にレベルを認定できる形で実施できるのか、そもそも多岐にわたる試験の改組を、わずか1年半で実施できるのか、など疑問は多い。

 実際、例えばITSSのレベル1は「要求された作業について、指導を受けて遂行することができる」と定義されており、少なくともプログラム言語の基礎程度は習得しているべき。これに対し、初級AD試験は「利用者側において、情報技術に関する一定の知識・技能をもち、部門内又はグループ内の情報化を利用者の立場から推進する者」。ユーザー側、それも業務部門のシステム担当という位置づけであり、両者のかい離は決して小さくない。

 「最終報告案には『エントリ試験の合格者は、レベル1相当とする』とあり、ニュアンスとしてはレベル認定の十分条件に思える。そうではなく、必要条件の一つにすべきではないか」--。IT企業の人材・人事担当者、ユーザー企業のシステム部門長などの間では、こういった意見も多い。さらに多くのIT企業が新入社員に、基本情報技術者試験の合格を義務づけているという事実もある。初級AD試験をエントリとするのは大学側から見ると整合するが、IT企業側からみるとあまり意味がない可能性があるのだ。

 それでも、非常に難しく長年先送りされてきた議論が前進したことは事実。読者の方々には、自分や後輩の将来に影響する、という視点でパブリックコメントをしていただきたいと願う。