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5月16日に開催された保護利用小委
5月16日に開催された保護利用小委
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 文化庁長官の諮問機関で著作権の保護期間の延長問題について検討する、文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(保護利用小委)の2007年第3回会合が、2007年5月16日に開催された。

 前回に引き続き、著作権に関連する業務を手掛ける関係者など17人からのヒヤリングを実施した。今回は、中立的立場にある弁護士や学識経験者などから、保護期間延長に反対する意見が複数出された。

「著作権の相続手続きするケースはまれ」

 慶応義塾大学教授(図書館情報学)の糸賀雅児氏は、保護期間を著作者の死後50年から70年に延長することで、著作物の利用許諾が現状よりさらに困難になると指摘。「著名な作品を残した著作者を除くと、著作者の死後に遺族が著作権を相続することはまれ。また、権利者が法人の場合はよいが、個人の場合は、ふつう連絡先を対外的に公開しない。保護期間を延長すれば、権利者の死後に著作権が相続されず権利者不明となる作品が増加するおそれがある」とした。

 糸賀氏はまた、自由利用マークについて触れ、「21の中央省庁が発行している白書類についてマークの有無を確認したところ、掲載があるのは1冊だけ。併せて実施したアンケートでも、19省庁が『自由利用マークを見たことも聞いたこともない』と回答している。例えば、書籍の作者へ自由利用マークの掲載を促すよう出版社に対して義務づけたり、自由利用マークの利用が進んでいる企業に対して税制上の優遇措置を設けたりと、具体的な施策をもって自由利用マークの普及を図ることも考えてよいのではないか」と提案した。

「著作権の国際収支、年間6000億円の赤字」

 弁護士の福井健策氏は、これまで欧米や日本などで保護期間が繰り返し延長されてきた一方、短縮されたケースが一度もないことを指摘し、拙速な延長に警鐘を鳴らす。「保護期間の延長の影響は、私たちの子孫にも半永続的に及ぶ。誰がどのような根拠で延長に賛成し、反対し、あるいは沈黙したのか、歴史の検証に堪える議論を望み、また注視したい」と述べた。

 また、「保護期間延長の賛成派は、著作物データベースを構築すれば過去の著作物も円滑に利用できるとする。意義ある取り組みだとは思うが、延長の問題点を解消できるほどの網羅性を持ったデータベースの構築は困難だ。国立国会図書館所蔵の和書だけを対象としても、著者は79万人に上る。対象を海外まで広げ、死後70年まで遡及すればさらに膨大になる。その費用は国民に負担させるのか」とただした。

 日銀統計によると、著作権をめぐる国際収支が年額6000億円の赤字になり、さらに年々増加していることにも触れ、「戦前の欧米作品を延命させ続ければ、輸入超過や国際的な知財の偏在が固定化する。『村上春樹作品やアニメを保護するために延長が必要だ』という人もいるが、これらは少なくとも向こう30年は保護期間が切れない。30年後に、30年後の状況を踏まえて延長の是非を判断すればよいのであって、今延長することはない。欧米に何か言われると、すぐさま妥協点を探ろうとするような姿勢はもうやめた方がよい」との主張も展開した。

「保護期間延長の経済効果、1~2%に過ぎない」

 慶応義塾大学教授(計量経済学)の田中辰雄氏は、保護期間延長による経済効果は小さく、パブリックドメインとして利用を促す方が合理的とする。保護期間を延長する場合の経済効果は、「過去に研究事例がある書籍で言うと、保護期間を延長することによる著作者の収入増は、全収入の1~2%と言われている。印税が10%から10.2%に上がったら創作意欲が高まるだろうか」と疑問を呈する。

 一方で保護期間を据え置き、パブリックドメインとして自由に利用可能にすると、「パブリックドメインを利用して新たな利用を促進するようなビジネスが増えている。例えば『青空文庫』は6000作品をラインアップしており、上位1000作品の閲覧数は年間450万人。格安DVDの販売本数は年間180万本に上る。黒澤明の『羅生門』や平原綾香の『ジュピター』など、権利の切れた作品を基に新たな作品を再創造する例も多い。SNSやブログでは、1000万人の一般市民がコンテンツを創作・発信している。パブリックドメインが次世代の創作者の糧になり、一般市民が創作を楽しむベースになる」との見通しを示し、「延長しない方が社会のためになる」と結論づけた。

 このほかの意見では、「保護期間延長には否定的だが、仮に保護期間を延長する場合、死後50年を超える部分は届け出制として一律に延長しないよう希望する」(慶応義塾大学准教授の金正勲氏)、「意思表示システムの一環として、博物館での自由利用を認めることを示す自由利用マークを創設してほしい」(国立科学博物館 情報・サービス課長の井上透氏)、「保護期間を延長しようという議論の中で、先代の技法を学びその伝統につながろうとする模写教育の良さが無視されている。過去の作品を伝統の中に組み入れ、伝承していく力が失われるおそれがある」(劇作家の別役実氏)、「芥川龍之介は『50年後に自分の作品を読んでもらえるだろうか』と悩んでいた。創作者にとっての最大の願いは、作品を多くの人に読んでもらうことである。保護期間延長は作品が利用される機会を減らし、文化的損失を招く」(作家・詩人の寮美千子氏)、などが挙がった。

 また、「オーケストラにとっては、保護期間の延長問題より、日本音楽著作権協会(JASRAC)に対して支払っている使用料の負担の方が切実な問題」(日本オーケストラ連盟 常務理事の岡山尚幹氏)、「ソフトウエアに関しては、50年を超えて利用されるとは考えにくく、保護期間延長はそもそも現実的でない」(コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事の久保田裕氏)との指摘もあった。

「国際的潮流を主導すべき」「国の文化的財産の損失」との声

 一方、権利者団体の関係者を中心に、保護期間延長に賛成する立場からの意見もあった。日本レコード協会 専務理事の生野秀年氏が「レコードの保護期間は、既に21カ国で発行後50年超となっている。日本はレコード売上高が世界第2位であり、国際的潮流を主導すべき立場にある」との意見を述べた。

 日本美術家連盟 常任理事の福王寺一彦氏は、「エドワルド・ムンクは、欧米ではまだ保護対象になっていながら日本ではパブリックドメインになった。その途端、『叫び』をパロディにした人形が発売されるといった事態も起きた。創作者に対して失礼なことはすべきでない。2009年には横山大観の著作権がパブリックドメインになる。横山大観記念館は運営費用の一部を著作権使用料で賄っており、パブリックドメインになれば記念館の運営自体が困難になりかねず、国の文化的財産の損失を招く」と訴えた。