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写真1●MicrosoftのBob Muglia氏(左)を説教する「ドク」(を演じる俳優のChristopher Lloyd氏,右)。「実現できもしないビジョンを語るのはよせ」と「ドク」が忠告
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 「(実現できもしない)将来の『ビジョン』を語るのはもう止める。システム管理者の日常業務をすぐに改善できる『プラン』だけをお話しする」--。米Microsoftサーバー&ツール・ビジネス部門担当のSenior Vice PresidentであるBob Muglia氏は,映画「Back to the Future」の「ドク」に説教された果てに(写真1),「ビジョンを語らない」と宣言した。6月4日(米国時間)に開幕した「TechEd 2007」は,このような異例の基調講演で幕を開けた。

 システム管理者やアプリケーション開発者を対象としたカンファレンス「TechEd」の基調講演は,Microsoftのサーバー製品や開発ツールの「ロードマップ」や,より長期的な「ビジョン」などが示されるのが常である。しかし今年のTechEd 2007の基調講演では,すでに公表されている2008年までの製品ロードマップ以外に,未来の話は全く行われなかった。

 Microsoftは現在,主要製品のロードマップについて「沈黙」を保っている。2007年内に「Windows Server 2008」と「Visual Studio 2008」「.NET Framework 3.5」をリリースすることや,2008年に「SQL Server 2008」をリリースすることは公開しているが,その後のロードマップは示していない。Windowsのロードマップに関しては,2007年10月に予定されていた開発者会議「PDC(Professional Developers Conference) 2007」で示されるものと目されていたが,PDC 2007の開催は5月の段階でキャンセルされている。

 先に述べたように,今回の「TechEd 2007」でも,2009年以降の製品ロードマップは一切公開されなかった。その代わりに基調講演では,Microsoftがロードマップやビジョンを示さない理由が,映画「Back to the Future」のパロディ・ビデオの形を借りて説明された。

写真2●「TechEd 2007」の基調講演を「失敗したばかり」のBob Muglia氏の元に現れた「ドク」は,「聴衆はMicrosoftのビジョンとやらに疲れ果てている」と一喝
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写真3●「Microsoftの素晴らしいHailstormを使え」とボスに迫られる気の毒なITマネージャ。「プライバシーの問題がありますし…」と反論しても,頭を叩かれるだけだった。
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 Muglia氏がビジョンを語るのをやめたのは,「過去にMicrosoftが実現できないビジョンを提示することで,システム管理者や開発者に迷惑をかけてきたことを反省したから」だという。基調講演では冒頭,映画「Back to the Future」に出てくる科学者「ドク」(を演じる俳優のChristopher Lloyd氏)が現れ,Muglia氏と一緒にタイムマシンの「デロリアン」に乗り込んで,Microsoftが過去にどれだけシステム管理者に迷惑をかけてきたか振り返るという,非常に自虐的なビデオが上映された(写真2)。

 デロリアンが向かった過去は,「2001年」と「2003年」だ。最初に訪れた「2001年」は,Microsoftが「.NET」や「Hailstorm」などのコンセプトを発表した年である。ある会社では2001年,気の毒なITマネージャが,乱暴者のボスやその取り巻きに「Hailstormを使え!何百万ものユーザー・データがMicrosoftに蓄えられていて,それを俺たちが自由に使えるらしいじゃないか」など“無理難題”を持ちかけられて,いじめられていた(写真3)。

 次に向かった「2003年」(MicrosoftがLonghornの構想を発表した年)でも,同じ気の毒なITマネージャが,乱暴者のボスやその取り巻きに「『WinFS』を使え!『Storage+』の後継製品なんだぜ。Microsoftの“Future Storage System”だ!」などと責められていた。

 HailstormやWinFSは,Microsoftが「情報システムやインフラの姿を一変させる」と喧伝して,結局実現しなかった「ビジョン」の代表例である。Microsoftが提示する「実現できそうもないビジョン」によって,現場のシステム管理者やアプリケーション開発者が大きな迷惑を被った--。「ドク」はMuglia氏をこうさとしたわけだ。

写真4●Microsoft BobとOfficeアシスタントが支配する暗黒の未来図
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写真5●「ダイナミックなIT」を実現するために注力している4つの分野
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 Muglia氏はさらに,「ショッキングな未来」も目にする。タイムマシンのデロリアンに乗って,「Microsoftがビジョンを語り続けた場合の未来」に向かったところ,そこに現れたのは,Microsoftの失敗作として名高い「Microsoft Bob」や「Officeアシスタント」のキャラクター達だったのだ(写真4)。

 Microsoftが2000年から2003年にかけて提示した「ビジョン」は,Microsoftが言う通り,確かに実現しなかった。だからといって「ビジョンを提示しない」のは,委縮し過ぎであるようにも映るが,Muglia氏は基調講演を通じて「実現可能なプラン」の説明に専念した。

 最後に,Muglia氏が示した「プラン」を紹介しよう。Microsoftは現在,ビジネス情勢の激しい変化に迅速に対応できる「ダイナミックなIT」を実現できるように,四つの分野に注力して製品開発を進めているという(写真5)。

 一つ目の分野は「Unified&Virtualized(統合と仮想化)」。同社では現在,システム管理製品群「System Center」の改善を通じて,サーバーの統合管理を進めている。また仮想化技術に関しては,(1)プレゼンテーション層での仮想化である「Windowsターミナル・サービス」,(2)アプリケーション層での仮想化である「SoftGrid」,(3)OS層での仮想化である「Windows Server Virtualization」と「Virtual Server」--という3種類の技術の導入を進めている。これらの製品が出そろう2008年には「データ・センターの運用が,飛躍的に簡素化する」(Muglia氏)と言う。

 二つ目の分野が「Process-Led, Model-Driven(モデルを通じてプロセスを推進する)」というもの。現在は,システム管理のプロセスを推進するには「Webなどで技術ドキュメントを読んで,作業を進めなければならない」とMuglia氏。しかし,Microsoftは現在,システム管理製品群の「System Center」において,システム管理にまつわる知恵(ベスト・プラクティス)の「モデル化」を進めているという。「将来的には,モデル化された知恵をシステムに適用してやるだけで,自動化されたシステム管理が可能になるだろう」(Muglia氏)。

 三つ目の分野は「Service-Enable(サービスとして利用可能)」で,いわゆるSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づいたシステムを開発しやすくすることである。SOAを実現するための製品が「BizTalk Server」で,既存の業務アプリケーションをBizTalk Serverと連携させることで,業務アプリケーションの備える機能を容易にWebサービスとして公開できるようになると強調した。

 四つ目の分野は,「User-Focused(ユーザーのことを考えたアプリケーション開発)」というもの。Microsoftが2007年内にリリースする「Visual Studio 2008」では,「Microsoft Office」をユーザー・インタフェース(UI)に使うアプリケーションの開発が,従来よりも容易になる。「Office 2007」の「リボンUI」に,自社開発の機能を組み込んだりもできるという。Muglia氏は「ユーザーが慣れ親しんだMicrosoft Officeを使うことで,生産性の高いアプリケーションが実現する」と主張している。

 Muglia氏が語った「プラン」は,いずれもすでに紹介済みの話題ばかりであった。TechEd 2007の基調講演は,ニュースがまるで無かったことこそが,最大のニュースだったと言えるだろう。