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写真1●評論家のNicolas Carr氏
写真1●評論家のNicholas Carr氏
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 「19世紀末,工場主は自前で発電機を運用していた。しかし『電力会社』が現れると,誰もがネットワーク経由で電力を使うようになった。同じことがITでも起こる。コンピュータ利用は今後,ユーティリティ・モデル,クラウド・モデルに移行する」--評論家Nicholas Carr氏(写真1)は2008年5月20日(米国時間),テキサス州ヒューストンで開催された,米Citrix Systemsの年次カンファレンス「Citrix Synergy」の基調講演でこう指摘した。

 Nicholas Carr氏は2005年に「Does IT Matter?」(邦題は「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」)を出版して,「ITは経営を差異化する要素にはならない」と指摘した評論家である。Carr氏は2007年末に新著「The Big Switch: Rewiring the World, From Edison to Google」を出版し,「コンピュータは発電機と同じ。発電機がそうであったように,コンピュータもGoogleのような大規模事業者のデータセンターに集約され,ユーザーはユーティリティとしてコンピュータを利用するだけになる」と主張して,IT業界の注目を集めている。

写真2●20世紀初めの工場の様子。大型の発電機を自前で運用していた
写真2●20世紀初めの工場の様子。大型の発電機を自前で運用していた
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写真3●メインフレーム時代は80%に達していたシステムの利用率が,現在は30%にまで低下していると指摘
写真3●メインフレーム時代は80%に達していたシステムの利用率が,現在は30%にまで低下していると指摘
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 Carr氏は,19世紀末から20世紀初頭にかけて,多くの工場では自前で発電機を運用して,電力を得ていたと指摘する(写真2)。「なぜなら電力を得るためには,他に選択肢が無かったからだ」(Carr氏)。しかし1910年代に,電力会社から電力の供給を受けられるようになると,1930年代までにはほとんどの企業がサービスとしての電力を使用するようになった。これほど大きなシフトが短期間に生じたのは,発電機の運用が企業にとって複雑であり,重荷になっていたからだ。Carr氏は,現在のIT投資が企業にとって重荷になっており,早晩,電力と同じように「ユーティリティの利用へのシフト」が起こると指摘する。

 Carr氏が現在のIT投資の問題点として強く指摘するのは,その投資が様々な無駄を生んでいることだ(写真3)。「現在,サーバーの利用率は平均して20%であり,80%が無駄に待機している。ストレージの利用率も35%で,残りは無駄に投資されている。労働力にも無駄が生じており,人的コストの70%はメンテナンスに費やされ,ビジネスを変化させる目的には30%しか使われていない」(Carr氏)。メインフレームの時代には,システムの利用率は80%に達しており,企業の投資に占めるIT分野の割合も,今よりもずっと少なかった。Carr氏はIT投資を効率化するために,様々な企業がコンピュータ資源を共有することでシステム全体の使用率を上げる「共有モデル」に移行すべきと主張する。

「その時」がついに来た

 もちろん,このような議論は過去から行われているものであり,Carr氏も「なぜ今なのかを説明する必要がある」と語る。Carr氏が「なぜ今なのか」として挙げたのが,「グローブの法則」の終焉である。「グローブの法則」とは,米Intel元会長のAndrew Grove氏が述べた「通信の速度は100年で2倍にしか上がらなかった」という発言を指すもので,コンピュータの速度に比べて通信の速度がなかなか上がらない状況を指す。

写真4●ネットワークの速度向上が,プロセサの速度向上に近づいたことが「要因」
写真4●ネットワークの速度向上が,プロセサの速度向上に近づいたことが「要因」
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 しかし現在,通信速度は「ムーアの法則」を上回る勢いで伸びており(写真4),「中央サーバーから提供されるサービスを,ネットワーク経由でようやく利用できるようになった」(Carr氏)。1993年に,当時米Sun MicrosystemsのCTO(最高技術責任者)だったEric Schmidt氏(現在は米GoogleのCEO)が「ネットワークがプロセサ並に速くなる時が来たら,コンピュータは空洞になり,ネットワークに拡散するようになる(When the network becomes as fast as the processor, the computer hollows out and spreads across the network)」と述べているが,「その時」がついに来たというのがCarr氏の主張だ。

 事実,ユーティリティ・モデルへのシフトは,すでにコンシューマ領域で起きており,多くのユーザーが注目するネットワーク・サービスが大量に存在するとCarr氏は指摘する(写真5)。またCarr氏は,すでに様々なベンダーが企業向けにクラウド・コンピューティングを売り込み始めていることも,周知の通りだと語る(写真6)。

写真5●コンシューマのIT利用は,すでにユーティリティ・モデルに移行済みと指摘する   写真6●主な「企業向けクラウド・コンピューティング」のプレイヤー企業
写真5●コンシューマのIT利用は,すでにユーティリティ・モデルに移行済みと指摘する
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  写真6●主な「企業向けクラウド・コンピューティング」のプレイヤー企業
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 Carr氏は「10年も経たない内(Next few decades)」にユーティリティへのシフトが完了し,「電力会社から供給されている電力が,個人や一般の企業にとって『無制限』のものに見えるように,コンピュータ・クラウドから無制限のコンピューティング・パワーがもたらされるようになる」としている。

■変更履歴
Nicholas Carr氏のお名前が当初間違っておりました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/07/03 15:00]