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写真1●ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長の高岡浩三氏
写真1●ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長の高岡浩三氏
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 2008年6月17日,ウェスティンホテル東京(東京都目黒区)で開催されているNET Marketing Forum Spring 2008ではネスレコンフェクショナリー代表取締役社長の高岡浩三氏が「キットカット受験キャンペーンの軌跡」と題した基調講演を行った(写真1)。

 まず,高岡氏はキットカットは70年以上前に英国で発売されて以来,世界100カ国以上で販売されているチョコレートであることを紹介した。ネスレ自体で売り上げ1000億円を超えるブランドが20以上あり,キットカットもその一つに仲間入りしているとした。日本では1972年に発売され,英国に次いで世界2位の売り上げだという。

 このように世界的なブランドとなったキットカットだが,消費者とブランドをつなぐ精神的な核となっているのが「Have a break, have a KitKat」というブランドメッセージ。“break”では「折る」と「休息」という二つの意味をかけている。

 高岡氏が日本におけるマーケティング本部長として就任した8年前,当時のマーケティングスタッフに「キットカットブレイクとはなんだ?」と聞いたが,「スイス本社のガイドラインですという回答しかなかった」(高岡氏)。シンプルな質問に誰も答えられるスタッフはいなかったと当時を振り返った。高岡氏は日本版キットカットブレイクを再定義する必要があると考えたという。

 2002年,消費者インサイトを探る調査を開始。消費者に「あなたのブレイク」を写真に撮って送ってもらうことにした。いろいろな人がブレイクの瞬間をカメラで撮影して送ってくれたという。そこには様々な生活のシーンがあったが,共通していえるのはすべて身体ではなく心のブレイクだったということ。日常的なストレスから解放される一瞬だったという。

 ここでキットカットブレイクを「ストレスからの解放」と定義。その後,消費者はどういうストレスに悩まされているのかを探った。

「ありがとう」と言ってもらうことを究極の目標に

 ちょうどそのころ,1本の電話があった。それは九州の支店長がかけてきたものだった。九州ではなぜか毎年1月,2月になると店頭でキットカットが売れていたが,その理由はずっとわからなかったという。そこで販売店員がキットカットを購入したお客様に聞いたところ,受験生の間で「キットカット」と「きっと勝つと」という語呂がいいという理由で購入していたことが判明。

 これを契機にお客様の声を調べたところ,大多数ではないものの,毎年,受験生や受験生の親がキットカットを買っていることが判明。高岡氏は「マーケティングの怠慢以外なにものでもなかった」と当時を振り返った。キットカットがもしストレスの多い受験生の傍らに常にいることができれば,一生忘れることのできないブランドを確立するチャンスがあるのではと気づいたという。

 当時,高岡氏は「ブランドをさらに成長させるためにはこれまでのブランドを単に“消費”するのではなく,経験,体験してもらう必要があると考えていた」。ブランドに対する特別な感謝が生まれるとき,ロイヤルティが生まれる。それゆえ,ブランドを購入した人から「ありがとう」という言葉をもらうことを,ブランドマーケティングの究極の目標として掲げたという。

 まず,宣伝からPRに切り替えた。「キットカット=きっと勝つと」はお客様から生まれたブランドメッセージ。これをネスレが横取りせず,一切ブランドメッセージを発信しないことに決めた。広く信仰されていることを,ニュースとして広めたいと考えたという。

 最初に始めたのはホテルから。ホテルに宿泊した受験生に対してチェックアウトの際,キットカットと満開の桜の絵はがきをホテルマンから手渡ししてもらった。「驚いたのは受験生からのありがとうからだけでなく,ホテルマンからも喜びの声をいただいたこと」(高岡氏)。常にホスピタリティを提供し続けるホテルとのコラボレーションを通してマスマーケティングでは決してなし得なかったことが実現できたと実感したという。現在では300以上のホテルが自主的にキットカットと満開の桜の絵はがきを配っていることも明らかにした。

 その後,高岡氏はキットカットによる電車,タクシー,外食産業など様々なコラボレーションの事例を紹介。2008年にはau(KDDI),ガスト(すかいらーくグループ)とコラボレーションしていると紹介した。

 高岡氏はこうしたキットカットに関する一連の施策について「作り手側の宣伝,広告から離れることから始まった」と説明。そのうえで,「(消費者の)経験をブランドのあるニュースに仕立て,パブリシティにして人々の心に浸透させる」(高岡氏)というブランドの作り方は,一方向のマスマーケティングでは難しいとし,消費者と双方向にやり取りできるネットマーケティングしかなし得ないとした。

 講演の最後に高岡氏は,キットカットの事例がフィリップ・コトラー氏の近々発売される著書に取り上げられることを明らかにした。