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 6月27日金曜日(米国時間),米Microsoftの共同創設者で,ハーバード大学中退という学歴を持ち,世界一の金持ちの1人であるとともに,間違いなく歴史上最大の慈善家というWilliam H. Gates III世――つまりBill Gates氏――は,Microsoftの常任会長職から退き,人生の次なる舞台に踏み出す。ただ,今後も引き続き役員会の会長を務めるし,同社最大の個人株主という立場も変わらない。今後も非常勤でアドバイスしていく。そして,妻と運営している福祉財団Bill&Melinda Gates Foundationにより多くの時間を割き,世界の医療改善と貧困解消を目指す。Bill&Melinda Gates Foundationは350億ドル近くもの援助実績がある世界最大の慈善団体である。

 Gates氏は,Microsoftにとってどの程度重要な人物なのだろうか。以下のような尺度ではどうだろう。同社は,同氏がこれまで1人でこなしていた業務を引き継ぐ担当者として,CEOの最高経営責任者(CEO)Steve Ballmer氏,チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのRay Ozzie氏,最高研究/戦略責任者のCraig Mundie氏という3人を任命した。ただし,いずれもGates氏に取って代われるほどの業績を持っておらず,「Gates後」数カ月,数年経過した同社の状況は不透明だ。

 Gates氏はPaul Allen氏とともに1975年,世界初のパソコンである米Micro Instrumentation Telemetry Systems(MITS)製「Altair」用のソフトウエアをプログラミング言語BASICで開発する会社「Micro-soft」を立ち上げた。Gates氏と仲間たちは,創業初期BASICという外部の技術を活用した流れに従い,主に他者のアイデアを改良してうまく普及させることで成功を積み上げていった。同社初のOS「XENIX OS」は,「UNIX」を下敷きに開発したものである。

 米IBMに提供したパソコン用OS「MS-DOS」は,「CP/M」を参考にしており(「CP/Mをコピーしただけ」と切り捨てる人もいる),IBM PC用OSのデファクト・スタンダードとなり,その後PC互換機でも使われるようになった。さらに,米Apple(当時の社名はApple Computer)が「Macintosh」で採用したGUIをWindowsに流用し,Macintosh用マウスとよく似たマウスを導入し,他社のソフトウエアを猿まねして「Multiplan」「Word」「Excel」などのアプリケーションを作り,オフィス・プロダクティビティ・スイートという概念を引き写して「Microsoft Office」を出した。

 1990年代中盤にはサーバー市場への進出も開始し,現在はデータベース,高性能コンピューティング(HPC),オンライン・サービス,デジタル・メディア,スマートフォン,タブレット・コンピューティングなど,考えうるほぼすべてのコンピュータ分野に関与している。既存企業に太刀打ちできない分野では,潤沢な資金を使って主要企業を買収することで拡大してきた。

 Gates氏とMicrosoftが革新的だったとは言い難いが,成功に飢えていたことは間違いない。この成功こそ,同氏が優れた商才を持っている証だ。同社の中核製品は,たいてい同社が初めて市場投入したものでなかった。しかし,未開拓だった多くの市場を支配できた。

 Microsoftのこうした強引な事業展開は,予想通り独占禁止法(独禁法)取り締まり当局に目を付けられた。そして,まず米国でトラブルに巻き込まれ,続いて全世界で同様の状況に陥った。同社が米国で独禁法による裁判を起こされ,Gates氏は最低の気分を味わい,その当時出回った宣誓証言のビデオで見せた無愛想な態度から,「反抗的で頑固な独占主義者は自社の突然の落ち込みにうまく対処できない」と見られるようになった。同氏とMicrosoftはいずれもこの大失敗から立ち直ったものの,同社が米国連邦政府および複数の州と和解したころには,ライバル企業がMicrosoftを恐れなくなってしまった。

 Microsoftは現在もコンピュータ業界を牛耳っているが,群を抜くような存在でなくなった。そして,Appleや米Google,任天堂,カナダResearch in Motion(RIM)といった主な競合企業は,以前と同様のやり方で新分野を支配しようとするMicrosoftの様々な試みを跳ね返している。実際に形勢は逆転してしまった。すでに1億5000本以上も売れた「Windows Vista」など好調なMicrosoft製品でさえも,ライバル企業とアンチMicrosoft派の専門家が展開するオンライン活動のせいで不成功と受け取られている。Microsoftは,創業以来初めてこのような状況になった。Gates氏の後継者は,この状況にうまく対応しなければならない。

 Gates氏は,ハーバード大学時代からの友人で今も親友のBallmer氏にCEOの座を譲った2000年以降もしばらく奮闘したが,ついに潮時となった。その後Mundie氏やOzzie氏といったほかの幹部により多くの権限を委譲し,いよいよ(社内の関係者は「今でも重要な決断と戦略にGates氏が関与している」と話すものの)同社にとって形式上の重要人物とされるようになった。

 Gates氏は6月第4週,これまでの足跡を振り返って「どのOSが使われているか気にすることなど,飢餓や人の生死に比べたらたわいもない問題だ」と述べた。この発言を受け,筆者は同氏が将来の活動で幸運に恵まれてほしいとだけ願っている。同氏がコンピュータ業界に与えた影響の半分でも世界の医療/教育分野に及ぼすことができれば,世界の状況は改善するはずだ。