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写真●堀江正之・日本大学商学部大学院商学研究科教授
写真●堀江正之・日本大学商学部大学院商学研究科教授
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 「創業の精神に立ち返り,企業のミッションに見合ったリスク管理を考えることが,ERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)を実質化するうえで最も重要なこと」。

 堀江正之・日本大学商学部大学院商学研究科教授は2008年8月20日,東京ビッグサイトで開催中の「エンタープライズ・リスク・マネジメント 2008」において,「ERMへの道しるべ―ERM構築の狙いと勘所」と題して講演。企業がERMに取り組む際に,形式論として管理体制の構築に終始するのではなく,いかに実りあるリスク管理を組織に根付かせるか,という観点で解説した。

ERM構築の「8つの勘所」

 内部統制からERMへ---。堀江氏は昨今注目を集めているERMについて,「言葉は悪いが内部統制よりも性質(たち)が悪い」と言う。一般的な定義では,ERMは「事業体の戦略策定に適用され,事業体全体にわたって適用される」と同時に,「事業体のリスク選好に応じて」とされている。これにより,一部の経営者からは「ゴールのない徒競争のようで,どこまでリスク管理をすればよいか分からない」との声も聞こえてくるためだ。

 これについて堀江氏は,ERMと内部統制との違いについて説明しつつ,ERM構築の勘所を解説する。

 まず,内部統制の「統制」とERMの「M=管理」に着目し,「内部統制はERMにおけるPDCAサイクルの一部分となる」と指摘する。さらに,内部統制は手法だがERMは方法論であり,内部統制は個々のリスクの低減に焦点が当てられるが,ERMはリスクをトータルでとらえ,そのリスクに「どう対処するか」に焦点を当てた取り組みであるとした。

 そのうえで,ERMの8つの勘所として「前向きの管理を含める」「リスクの連鎖をつかまえる」「フィードバック機能も重視」「リスクへの対処という考え方」「PDCAにこだわらない」「正しいスパイラルアップの理解」「メリハリを付けた管理」「投資評価」---の考え方を紹介した。

 この8つの視点を理解するために必要なことは,リスクを個々の問題としてとらえるのではなく,経営全体の問題としてとらえることだ。個々の問題としてとらえると,個別リスクの低減という後ろ向きな管理に偏ったり,小さなリスクの連鎖が大きなリスクに発展する可能性が見えなくなったり,1つのリスクの発見をほかのリスクの発生予防に生かすという発想が出にくくなったりする。また,重要な経営戦略を担うものとの意識を経営者が持たなければ,形式だけのメリハリのない管理になりがちで,経営資源が分散し,きちんとした投資評価を行うという流れにもなりづらい。8つの勘所の根底には,こうした考えがある。

「押し付け型」ではなく「対話型」の管理を

 ただ逆に,「全社的という視点が重視されるため,ともすると形式化しやすく,目標もあいまいになりがちで実質化が難しい」という。例えば,経営者からの手紙によって社内周知の徹底を図ろうとしたり,専任役員のポストとしてCRO(最高危機管理責任者)を新設するなど,実質化という側面から考えると疑問視される動向も見られるという。

 そこで堀江氏は外部環境を正確にとらえたうえで,企業のミッションと企業文化に照らし合わせた戦略,組織構造,業務プロセス,個人の役割などが必要だという。それを実現する前提は,リスク管理の目的の明確化であり,リスク管理を多面的に捉えることであり,「押し付け型」ではなく「対話型」の管理を重視することだとした。

 その軸となる企業ミッションについては,「ミッション経営というとすぐに欧米式経営を想像し,その手法に着目してしまいがちだが,根本にある共通項は創業の精神」と指摘。「これがERMだという形はなく,尺度もない。しかし,創業の精神に立ち返ってリスク管理を考えることが,ERMの実質化にとって最も重要である」と締めくくった。