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TRONプロジェクトのリーダーを務める坂村健氏(東京大学教授,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長)
TRONプロジェクトのリーダーを務める坂村健氏(東京大学教授,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長)
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 「ユビキタス・コンピューティングで実世界の情報を把握することによって,社会基盤を細かく制御できるようになり,豊かな生活を維持しつつ省資源化を実現する持続可能な(サスティナブル)社会が可能になる」。2008年12月10~12日に東京ミッドタウンで開催されているカンファレンス「TRONSHOW2009」の基調講演で,TRONプロジェクトのリーダーを務める坂村健氏(東京大学教授,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長)は力説した。

 坂村氏は講演の冒頭で,「ユビキタス・コンピューティングは究極の組み込み」として,組み込み技術に取り組んできたTRONプロジェクトの延長線上にあり,目指すところであると言明。今後は,シャツや食品や薬のパッケージといった,これまで組み込み技術の対象になっていなかったあらゆるものに,小さく安くなったコンピュータが組み込まれていくだろうと語った。

 ユビキタス・コンピューティングの例として坂村氏は,TRONプロジェクトで開発したUWB(Ultra Wide Band)通信方式によるアクティブ・タグ「UWB Dice」について紹介した。UWB Diceは縦・横・高さがそれぞれ1センチ・メートル。コンピュータ,30~50メートル届く無線通信装置,リチウム電池を内蔵し,5分おきに取得したデータを送信する場合で9年間動作する。東邦薬品では倉庫から製品を出荷する際のピッキング作業でUWB Diceを使ったシステムを利用しており,ピッキング・ミスを減らすなどの効果をあげているという。

あらゆる場所にコンピュータを埋め込む

 坂村氏は今後の課題として,「“あらゆるモノ”だけでなく“あらゆる場所”にコンピュータを埋め込むこと」「メーカーの壁を越えて,シームレス,エフォートレスにコンピュータを相互接続し,協調処理を可能にすること」の2点を挙げた。あらゆる場所へのコンピュータの埋め込みを実現するため,坂村氏は地方自治体などと協力して「自律移動支援プロジェクト」などの実験を進めている。例えば,京都の宇治では,駅や周辺の観光地のいろいろな場所に電子タグを埋め込んで,受信機を持った人間の位置を把握することで,その人がいる場所に応じたナビゲーションや観光案内ができるようにした。いわば「ガイドさんがいつも利用者のそばに居るようなものだ」(坂村氏)。

 2009年2月からは「東京ユビキタス計画in銀座」として,東京の銀座で,数千の電子タグを使った地域情報提供の実験をする計画である。例えば,地下鉄の駅の前に来ると,利用者が持っている受信機が地下鉄の時刻表や運行情報を自動的に教えてくれるなどのサービスを提供することを予定している。「時刻表や運行情報を提供するサービスは携帯電話などで既に提供されているが,電子タグを使った場合は,利用者がわざわざアクセスしなくても自動的に教えてくれるところが特徴だ」(坂村氏)。街にタグを付けようという計画は,四国の松山や,東京の自由が丘などでも,計画されているという。

 課題の二つめとして挙げた,メーカーの壁を越えてコンピュータを接続することについては,「TRONプロジェクトではすべての情報を無料で公開している。言わば,オープン・アーキテクチャの元祖だ」と自信を見せた。坂村氏は特に,オープン・アーキテクチャ同士の接続が重要だと語り,最近の活動としてフィンランド技術研究センター(VTT)との共同研究について紹介した。この研究は,携帯電話用の基盤ソフト「NoTA」を,TRONプロジェクトが開発したリアルタイムOS「T-Kernel」上に実装するというもの。NoTAに関する情報やソースコードは今後,無償で提供する予定で,フィンランドのNOKIAが採用していくという。

 ユビキタス・コンピューティングの標準化に関してはほかに,5年ほど前から推進している「ユビキタスIDアーキテクチャ」について触れた。これは,「ucode」と呼ばれる2の128乗までの数値を使って,モノや場所に全世界共通の番号を振っていこうというもの。ucodeそのものはただの数字に過ぎず,ucode間の関係は「UCR(ucode relation)」で記述する。「ユビキタスIDアーキテクチャ」は2008年夏に,ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)の「F.771」「H.621」としてレコメンデーションされたという。

 最後に坂村氏は,将来のユビキタス・コンピューティングで実現できることとして,「自然環境の把握」「社会基盤設備の把握」「身体状況の把握」を挙げた。これらは実世界の認識に革命をもたらし,社会基盤の細かい制御を通じて「持続可能な社会」の実現に貢献するだろうと予測した。さらに,「ちょっと哲学的かもしれないが」と前置きしたうえで,「自分の行動が社会全体にどのような影響を与えるかが分かるようになれば,自覚が生まれ,各自がより良く振る舞えるようになるのではないか」と語った。