日本パブリックリレーションズ協会は2009年1月20日、「第1回新春PRフォーラム」を開催した。パネルディスカッション「ネット社会におけるメディアと企業広報」では、産経デジタル取締役の近藤哲司氏、日本放送協会(NHK)編成局デジタルサービス部部長の兄部純一氏、NTTレゾナントのシームレス事業部担当部長の小澤英昭氏が登壇。各社の取り組みや利用状況を例に挙げながら、ネットが広報、マーケティングに与える影響を語った。
まず、モデレーターである電通の電通総研所長の和田仁氏が、議論のテーマとして、「企業(広報)の立場から見ると、ネット社会では(従来のマスメディア以外に)使える媒体が増えた」こと、「ジャーナリズムから見ると、紙とネットの融合、使い分けが課題」になっていること、そして「企業もジャーナリズムも手を付けられず、新しい関係を築く必要があるコンシューマー・ジェネレーテッド・メディア(CGM)が発信する情報が増えている」という3点を設定した。
その後、各社が最近の取り組みを説明した。まず、産経デジタルの近藤氏は、「新聞社のビジネスモデルが壊れつつある」という課題の認識は業界に共通しているが、各社が取る戦術、戦略はバラバラであると説明し、同社の取り組みを語った。
他社ができないことをやるのが産経
産経デジタルは、「他社ができないことをやる」(近藤氏)ことを重視しているという。競合は新聞を守るために「3割ルール」を設けて記事の全部をネットで見せないようにしているが、産経デジタルは設立と同時にそのルールを撤廃した。さらに独自記事を拡充し、「MSN産経ニュース」は、新聞記事の転載が6割で、残りの4割は新聞に載っていない独自コンテンツだという。
その結果、「ネットレイティングスのデータによると、ユニークユーザー(UU)数のランキングではマスコミでは1位になった」(近藤氏)。また、同社の統計では、1カ月のページビュー(PV)は運営サイトの合計で9億2000万、UUは3400万人だという。また、「Yahoo! JAPAN」へ記事を配信しているが、同サイトだけでもPVは月3億5000万~4億に達するという。
これらのデータを基に近藤氏は、「(産経の)ネットは紙のユーザーの8~10倍いる。そのマネタイズ、新聞社の役割拡大が最大のミッションで、(企業の)広報、PRでネットをどう活用するか、それを議論、相談できたらありがたい」と訴えた。
NHKの「のどじまん」はCGMの原型
続いて、NHKの兄部氏が、NHKのネットに対する考え方や取り組みを説明した。同氏は、「4月からスタートするNHKの経営計画は、接触者率を80%に上げる」ことが目標であり、その実現の一つの方法として「テレビ、パソコン、モバイル(ワンセグ)の3スクリーンズ」に取り組むとした。
また、兄部氏は「のどじまん、あなたのメロディーなどの番組は、視聴者に参加してもらって作るCGMの原型だった」とした上で、放送とデジタルメディアを併用して「求める人に必要な情報を届ける」ことと「視聴者が参加するメディアに育てる」ことを実現したいと語った。
その取り組みの一つが、2008年12月から始まった「NHKオンデマンド」だ。一部の番組を放送後1週間程度ネット配信する「見逃しサービス」と、過去の番組約1600本を見られるアーカイブのサービスを提供する。兄部氏は利用実績について、「この景気状況で好調というわけにはいかないが、コアな方、ちゃんとテレビを見ている人に訴求している」と感じているという(NHK発表資料によれば2008年12月の同サイトの会員登録数は1万6000人、視聴回数は22万回)。
個別には、大河ドラマの「天地人」、NHKスペシャル「女と男」、実用番組、教養・情報番組「知るを楽しむ」などがよく見られているという。ただ、「ビジネスになる規模にするのは難しいと感じる」と率直な感触も述べた。
視聴者参加型メディアの取り組みとしては、「テレ遊び パフォー!」を紹介した。同番組は、ダンス、音楽の動画などをネットで投稿してもらい、優秀な数チームについて各分野のカリスマが指導する課程をテレビ番組として公開する。「視聴率は3~4%で、たくさん見てもらっているほどではない」(兄部氏)が、現場としては成長の目があると考えており4月以降も継続して番組を拡充する。
兄部氏は、「放送は即時性、共時性、同報性、一体感を体現できる一方、自分に引き寄せた情報もほしいというニーズもある。放送とネットを組み合わせれば視聴者、国民の皆さんのニーズに応えられる」と、放送とネットを組み合わせて視聴者のニーズに応えたいとした。