NTTは,2009年2月19日~20日に開催した「NTT R&Dフォーラム 2009」で,スケーラブル映像圧縮技術(SVC:scalable video coding)を用いたHD映像伝送デモを披露した。SVCは2007年に標準化作業が完了した規格で,地上デジタル放送やビデオカメラなどで広く使われるMPEG-4/AVC符号化方式を拡張したものである。1種類の圧縮データから,端末種類や回線速度,通信環境に応じて,解像度が異なる映像を送信できる。
SVCの基本的な考えは,圧縮処理を階層化することである。最下位階層を圧縮処理し,上位階層に向かって階層ごとに圧縮処理する。下位階層と上位階層の処理には相関があるため効率化が図られ,全処理を行う場合に比べて演算量を5%程度に削減している。最下層にMPEG-4/AVC方式を採用しているため,同方式に対応するモバイル機器はそのまま利用できるが,高解像度の映像を受信するには,専用の復号化ソフトが必要になる。
今回のデモでは,会場の風景をビデオカメラで撮影,その場で符号化し,モバイル端末(480×270),パソコン(960×540),大画面テレビ(1920×1080)と,解像度が異なる3種類の端末に映像を送信した。パソコンを利用した今回のデモでは,1秒ほどの遅延時間が生じていた。
会場の説明員によると,SVC技術は他社のビデオ会議システムに応用実績があるという。NTTとしては,IPネットワークを用いた映像配信サービス(IPTV)への応用を想定している。いずれの応用例でも,同一データから異なる画面サイズの端末に対して送信できるため,配信システムを簡素化できる。
同システムは,2009年4月に米国ラスベガスで開催予定のNABショーでも展示されるという。