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写真●総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課の谷脇康彦課長(左)と経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課の村上敬亮課長(右)
写真●総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課の谷脇康彦課長(左)と経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課の村上敬亮課長(右)
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 幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催されている「デジタルサイネージジャパン(DSJ)2009」で2009年6月11日、「デジタルサイネージと新しい都市空間市場の創出」と題して、経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課の村上敬亮課長と総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課の谷脇康彦課長によるパネルディスカッションが行われた(写真)。モデレータは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授でデジタルサイネージコンソーシアムの中村伊知哉理事長が務めた。

 パネルディスカッションでは、まず最初にモデレータの中村理事長がデジタルサイネージへの期待を説明した。インターネットの広告市場は伸びているが、広告市場全体は伸びていないという状況下で、今後はデジタルサイネージが新たな広告市場を創出する1つの切り札になるかもしれないというのがその期待だ。しかも、日本はブロードバンド普及率や高度な機能を搭載した携帯電話の所有率など、世界的に見てもデジタルサイネージを展開する環境面で優位に立てる。

 こうした期待感について、メディア・コンテンツおよび国際的な視点から見たICT政策に携わる行政の担当課長2人が、それぞれの見方と取り組みを語った。

総合的な施策で消費者を惹きつける

 経済産業省村上課長は、既存広告市場について「不況期を脱しても、4マス媒体で商品の認知だけを目的にした広告出稿の需要はもう戻らない」と手厳しい見方を示した。そう結論付ける根拠として「いまどきテレビ広告で好きなタレントが商品を宣伝しているという理由だけで、買いますか」と問いかけで答えた。マス広告の情報波及力は今、著しく低下している。そのため、不況の影響などで消費者も慎重に商品購入をせざるを得ないユーザーにとっては、インターネットで商品情報や意見を収集したり、実際に商品を手にして購入を検討するという消費スタイルが一般化しつつあるという考えだ。

 こうした環境変化を前提とすれば、企業は商品の認知度向上をマス広告出稿だけに頼る手法を見直す必要があると村上課長は語る。例えば、国内有数のナショナルクライアントである本田技研工業が2009年4月に、これまで広告機能を集中させていた宣伝販促部を解散して、さまざまな部署で機動的に広告・販促活動が行える組織体制に改めたことを挙げた。「進歩的な企業はすでに既存の広告出稿だけに頼る手法を改めたり、その議論を深めている。この動きを正確に捉えれば、企業の広告出稿に対する需要は下がっているが、商品を説明したいという需要は下がっていない」(村上課長)。

 つまり、企業が消費者に商品を認知させて実際の購買へ結びつけるには、今の時代に合わせた総合的な施策が求められるという主張だ。さらに、資金面では広告費という切り口だけで考えるのではなく、販促費という切り口も必要と唱える。伝達手法においても、マス媒体だけではなく、実店舗などのリアルとインターネットなどのバーチャルの両面を加味したさまざまな手法を活用する手法が欠かせないとする。こうした総合的な施策を実現させるための有効手段として、ICTの利活用が重要となってきていると説明する。

目指すはオープンイノベーションによる振興

 その実現を後押しする施策のキーワードとして、総務省では「スマートユビキタスネット」という言葉を掲げている。これは「利用者本位で水や空気のようにICTを使える環境づくり」(谷脇課長)をコンセプトとするもの。ユビキタス特区などの優遇策やICT関連の法整備を行っていくことで実現を目指す。

 この中で、デジタルサイネージは先進的なICTの1つと捉え、スマートユビキタスネットになるための検討を重点的に行っていくと谷脇課長はいう。今夏以降、デジタルサイネージを配信する広告代理店、配信ネットワークを整備する通信事業者、受信端末を販売するメーカーなど関係者たちと議論、それぞれのプレイヤーで異なるデジタルサイネージ関連の技術や規格の統一化を進め「オープンイノベーションを生み出すデジタルサイネージを目指す」(同)。

 デジタルサイネージのインフラやプラットフォームを整備する一方で、谷脇課長は「魅力あるコンテンツが重要」と強調する。例えば、携帯電話に蓄積される行動履歴や属性情報に合わせたパーソナライズ化されたコンテンツをデジタルサイネージに出したり、デジタルサイネージと連携させて携帯電話にカスタマイズされた情報を配信するコンテンツなどを想定している。「既存のモデルの置き換えではなく、全く新しいモデルの創出が柱となる」(谷脇課長)。

 一方、経済産業省では「e空間」と呼ぶビジョンを提示。空間をICT化することで、「いつでもどこでも」のユビキタス環境ではなく、「今ならここなら」の環境を創出することで、新たな消費を促す施策となる。例えば、秋葉原の駅の改札を出たら、その場限定のゲームを楽しめたり、情報を取得できるというものだ。「ICTで人が情報にリーチできるようにするのではなく、人を行動させる情報をリーチさせることで、新たな消費を生み出せる」(村上課長)。

課題となるのは法整備の実現

 キーワードは異なるものの、両省ともICTを活用することで、リアルとバーチャルの区分けなく、企業がマーケティング活動をするためのプラットフォーム作りを目指している。デジタルサイネージへの期待値も高い。

 ただし、デジタルサイネージの市場拡大には法整備の問題が大きい。総務省は通信と放送のICT関連法の規制を緩和する方向で調整しているものの、「医療関連の法規制により医療機関での展開が難しい」(谷脇課長)という問題や、「屋外での端末設置で建築関連法の問題もある」(村上課長)という。デジタルサイネージはICTを利活用した総合的かつ新たなモデルを構築できる可能性を秘める一方で、その壮大な構想のため、クリアすべき課題も多いといえそうだ。

 こうした課題は、一省庁だけの取り組みで解決するのは難しい。デジタルサイネージはさまざまな業界を巻き込んで発展する方向性が目指されているだけに、省庁間の意識の共通化や連携などの必要性も出てくるだろう。モデレータの中村理事長はパネルディスカッションの最後に、「こういう場に経産省と総務省の課長が並ぶことは、今までなかった」と、両課長が同じ舞台で議論し合えたことの意義を評価する言葉を述べて締めくくった。