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 携帯端末向けマルチメディア放送の実現のため開設計画に関する公開説明会(主催は総務省)が開催された(関連記事)。VHF帯のハイバンドのうち14.5MHz幅を利用した全国向け放送の受託放送事業者に名乗り出た2社が、それぞれ提出した開設計画のポイントを説明するとともに、互いに質疑・意見交換を行った。ISDB-Tmm陣営のマルチメディア放送(mmbi)と、MediaFLO陣営のメディアフロージャパン企画である。まずは、各社の計画の概要を、エリアカバー、特定基地局の開設数、端末、受託放送役務(委託事業者の利用料など)の観点から紹介する。事業開始時期を2012年4月1日を予定することや、中継回線として通信衛星を利用し、基地局まで情報を送ることは共通だった。

[マルチメディア放送]
<カバーエリア>
・サービス開始当初で約60%の世帯をカバーする。2015年7月末に91.3%、同年度末に91.9%。
・駅カバー率はサービス開始当初から50%超。
・全国の道路施設カバー率は2年以内で50%超に。

<特定基地局>
・2015年度末で125局。2016年度~2018年度も各年度ごとに25局程度の増設を予定する。
・小規模の弱電界地区対策としてギャップフィラーによる対策を実施する。

<受信機>
・早期立ち上げに向けてNTTドコモ、ソフトバンクモバイルからは搭載協力を取り付け済み。
・普及計画は上記2社において意思決定済みで、開始5年目で累計5000万台の出荷。

<受託放送役務>
・1セグメント当たりの年間負担額は、2012年度の1億3800万円から始まり2016年には4億4100万円(1セグメント形式の場合)あるいは、1億7300万円から始まり4億7700万円(13セグメント形式の場合)である。1MHz換算では、2012年度の3.13億円から始まり2016年には10億円になる(1セグメント形式の場合)。

[メディアフロージャパン企画]
<カバーエリア>
・屋外受信は2015年7月で93%、2015年度末までに全国世帯カバー率95%。
・屋内受信は同全国世帯カバー率90%
・駅カバー率は2011年度末で52%。道路施設カバー率は2013年末で65%。

<特定基地局>
・2015年末までに865局(内訳は、放送事業者の設備に設置予定が384、同KDDIグループが333、同業務用無線事業者が148)

<受信機>
・携帯電話端末における対応端末普及想定は7000万台(2020年度)。

<受託放送役務>
・MHz単価は21億2000万円(10年の長期期間委託契約の場合、5年契約の場合は29億2000万円)。なお、導入期の割引設定により、2012年は88%割り引いて2億5000万円からスタート(5年契約では3億5000万円からスタート)する。

大電力の是非が大きなテーマに

 以上見た通り、両者の開設計画は、設計思想が全く異なり、基地局数がかけ離れた数字になった。両社間の質疑応答では、この点が論争の大きなテーマになった。

 マルチメディア放送は、「既存放送局の放送局鉄塔を利用」「大規模局から優先的に設置し早期に広範なエリアを確保する」「大電力送信局による効率的な置局配置で安価な料金を実現する」という考え方である。例えば、マルチメディア放送は、東京地区について「東京スカイツリー」から放送波を発射し、一円をカバーする。これでコストを下げるという。実際,受託放送役務として委託放送事業者の負担金額は半額程度以下になっている。

 一方のメディアフロ-ジャパンは、「携帯端末利用者向けの有料サービスであることを踏まえると、屋内のサービス品質は極めて重要」という考えに基づいた計画だと説明する。マルチメディア放送に対しては,再三にわたり,サービス品質に対する疑問を投げかけた。

 メディアフロージャパン企画の説明によると,基地局を数多く用意した場合の利点として,SFN(関東地方で約3dB)を挙げる。例えばマルチパス合成により,受信電力を高められる。ODFMの場合は一定の範囲で受信の時間差を許容するので,異なる基地局から同じ信号を受け取ったときに合成して受信できる。

 さらに,送信電力を大きくした場合は,SFN混信(逆に一定の時間差を超えた場合は,同じ基地局からの信号でも反射波などは混信の原因になる)が問題になるとも指摘した。なおMediaFLOは、各基地局にIDが割り当てて混信発生時に原因局が特定しやすい仕組みがあることも技術的な優位点とアピールした。

 これに対し,マルチメディア放送は,放送区域の設定に当たっては,認定申請マニュアルより厳しい条件でシュミレーションしたこと,SFN混信はほとんど起きないように十分にコントールできると主張した。

 一方,マルチメディア放送側は,ブースター障害やCATVへの干渉の発生確率が大幅に大きくなるのではないか,と指摘した。アナログ放送の跡地を使う場合に,突然新たなVHF帯の送信点が全国にできることになるからである。これに対しては,メディアフロージャパン企画はしっかりと対策を考えた上のものであり,問題はないと応じた。

 携帯端末向け放送のインフラについては,安価であればあるほどいい。しかし,もし「安かろう,悪かろう」では問題外である。いったいどのレベルが求められるのか,という解があるわけではない。当然だが,両者とも一歩も引かない論争を展開した。

もう一つのテーマは受信設備の普及

 端末についても、論点は大きく分かれた。マルチメディア放送は,早期立ち上げに向けてNTTドコモとソフトバンクモバイルから搭載協力を取り付け済みと表明し,メディアフロージャパン企画の端末に関する数字が予測にすぎないのではないか,と疑問を呈した。これに対しては,出席していたKDDIの小野寺正代表取締役社長兼会長が「ハード会社は1社になった以上,それを皆が使わざるを得ない」とし,この議論に意味があるのかと反論した。

 もうひとつ焦点になったのは,消費電力である。ISDB-Tmmの場合は,いったん6MHz分の信号を受信したあと所望の信号の処理をする。受信の段階で信号の絞り込みができるMediaFLOの方が,受信ICの消費電力は小さくなる。

 ただしこの点については,バッテリの駆動時間を決めるのは受信ICだけではなく,映像処理ICやディスプレイのバックライトなどの合計であることから,マルチメディア放送側は受信ICの消費電力を過大評価することには疑問を呈した。

 なお,メディアフロージャパン企画は,移動機メーカー7社およびカーナビ/パソコン機器メーカー8社と,受信設備開発の推進に関する契約を締結済みであることを報告した。