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写真1●クロスデザインの黒須信宏代表取締役アートディレクター
写真1●クロスデザインの黒須信宏代表取締役アートディレクター
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 「紙メディア用データは紙以外の用途としては資産価値はない」。2010年10月19日、ITpro EXPO 2010のフォーラム「デジタル・パブリッシング・カンファレンス」で、クロスデザインの黒須信宏代表取締役アートディレクター(写真1)は現在のデジタルメディアの制作状況をこのように述べた。

 黒須氏は、単純に“資産価値はない”ということを言いたいわけではない。紙メディア用データはあくまでも紙媒体を作るためのものであり、その面においては十分価値がある。それを安直にデジタルメディアに「転用するのは難しい」ということを刺激的に説明したものだ。

 「紙の置き換えではない、マルチアウトプット時代のワークフロー」と題した黒須氏の講演では、まずユーザーインタフェースについてiPhoneとiPadを例に説明。iPhoneとiPadでは、一見同じアプリに見えても、画面上に配置したサブビューのボタン配置など実は同社のアプリでは変えていることを見せた。

写真2●大根とおでんにたとえたデジタルメディアの展開
写真2●大根とおでんにたとえたデジタルメディアの展開
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 例えばiPhoneの場合、ユーザーは一般的に左手でiPhoneを持ち、左手の親指で画面をタッチする。その場合、画面上に配置するサブビューのボタンは、左寄せにした方が操作しやすい。一方、iPadは一般的に左手で持って右手の人差し指で画面にタッチする。そのため、画面上にボタンを配置する場合は右寄せの方が操作性が高い、ということなる。

 黒須氏はiPadとiPhoneだけでなく、今後こうしたデバイスが増えてきた場合、その分だけそれぞれに合ったユーザー・インタフェースを作りこむ必要があると説明。こうした具体的な例を元に、紙用に作ったデータを、デジタルメディアにそのまま展開するのは難しいとした。その際、黒須氏は大根とおでんのたとえ話をよくする(関連記事)。「生の大根は塩漬けにすれば漬物にもなるし、おでんにもできる。だがおでんになった大根は漬物にはできない」(黒須氏、写真2)。このたとえ話を元に、生のコンテンツ管理の重要性を説いた。

単一ワークフローの見直しを

写真3●生の状態でコンテンツを管理することが重要
写真3●生の状態でコンテンツを管理することが重要
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写真4●CMYKとRGBでは色域に差がある
写真4●CMYKとRGBでは色域に差がある
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 黒須氏は現在の書籍・雑誌の制作体制を「一つのメディアに特化した体制になっている」と説明する。これは紙媒体に特化している状況を指しており、作ったデータも当然ながら紙媒体専用になる。これを多メディア展開するには、「おでん(紙媒体用に加工したデータ)ではなく生の状態で大根を情報管理する」ことが重要であると述べる(写真3)。生の状態でコンテンツを管理することで、紙やデジタルメディアなど様々なアウトプット先に対応できる。

 例えば紙用に加工された写真の場合、その色空間はCMYKで表現される。だがデジタルメディアはRGBだ。CMYKとRGBではその色域に差がある。RGBの方が色域が広い(写真4)。たとえ話だけでなく、こうしたデータに基づいた例を挙げつつ、「多メディア時代の情報管理」のあり方として、コンテンツとデザインの分離を提案。「コンテンツはできるだけプレーンな状態で管理すること」と「各デバイス用の受け皿(アプリやブラウザー)に対して汎用性の高いデータ(XMLやHTML)を送る」ことで「情報が本当の資産になる」とした。

 最後に黒須氏は、今心配していることとして「あせってデジタルメディアに取り組んで、コンテンツを安売りするのがこわい」と述べた。紙でもデジタルメディアでも制作には当然ながらコストがかかる。安易なデジタルメディアへの移行や安売りによって、これまで紙で培ってきた高度な制作スキルが失われることのないように、「情報管理を考えて(業界が)成長していくことを願っている」と締めくくった。