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写真1●MITメディアラボの石井裕教授
写真1●MITメディアラボの石井裕教授
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 2011年8月6日、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの石井裕教授が、エンジニアを対象に「危機対応」をテーマにした講演を行った(写真1)。リクルートのTech総研アカデミーが主催する「JAPAN INNOVATION LEADERS SUMMIT」の1セッションで、正式タイトルは「311クライシス・レスポンス:エンジニアの活躍と未来展望:レジリアントな世界を構築するために」である。

宮沢賢治の肉筆原稿が語ること

 講演は、石井教授が敬愛する詩人、宮沢賢治の肉筆原稿のエピソードから始まった。岩手県にある記念館で、石井教授は宮沢賢治の生原稿を見た。そこには、消した文字や何度も書き書き直した跡がたくさんあり、フォントやテキストだけでは分からない情報がたくさんあった。「大事なものは、テキスト情報では排除されてしまう内容を想像する力だ」(石井教授)。

 このメッセージは、プレゼン半ばで紹介した、クリエイターたちによる支援作品サイト「kizuna311」や復興ポスタープロジェクト「復興の狼煙」にもつながっていく。限られた場所や時間に情報を詰め込み、受け手の想像力を喚起するような表現を石井教授は紹介した。

 石井教授は、今回の大震災とその後の報道などを多数のスライドを使って振り返った。そこで改めて見えてきたのが「科学者の説明能力」、「欧米メディアの図解能力」、「大量に流れた情報を俯瞰してまとめる能力」の重要性だと石井教授は指摘する。

 続いて、震災直後から動き始めた、ボランティアグループの震災情報集約サイト「sinsai.info」(関連記事)や、Googleによる被災者支援サイト「crisis response」、放射線量情報スマートフォンアプリ「風@福島原発」などの取り組みを紹介した。

 震災関連以外にも広島の原爆関連の情報を残すためのプロジェクト「hiroshima archive」や、世界規模の食材の流通経路を可視化した「sourcemap」などを紹介。情報の価値としてオープンであること(Open Information)、クラウドで提供されること(Cloud Sourcing)、つなぎ合わせて整理すること(Mashup&Curation)、強固なサプライチェーンを確保すること(Market of Supply&Demand)が大事だと石井教授は語った。

 石井教授がMITで取り組んでいるテーマは「アンビエント」。周囲の環境に溶け込んだICT技術を指す言葉だ。今後のICTの在り方として、パソコンやスマートフォンのように汎用的なものではなく、ある用途に特化したものが受け入れられるのではないかとした。例えば、発光色の違いによって電力供給のひっ迫度が分かるランプのようなものである。

人生とは「生きている間だけ」ではない

 後半は、「定年?絶命?どこまでが自分の人生か」という、“人生に対する問い掛け”へ。人生を語る上では、生きている間だけではなく、没後の100年を考えることも大切だと石井教授は言う。例えばクラウドにメッセージを残すことで後世にいろいろなことを伝えられる。

 個人のメッセージとは異なるが、石碑をクラウド上に置くイメージ(雲上石碑)で、「世界中で起こった1000年に1度の災害を、記念日として共有するようなオンラインカレンダー」を示した。これにより、災害の記憶を風化させないようにという提案だ。

 震災後の世界の在り方については、「弾力性があって、立ち直りが早い世界を作る」という方向性を示した。自然災害だけでなく、経済的な危機など今後も数多くの困難が訪れることが予想できるからである。次の危機を迎える前に、前回の被災から早期に回復する必要がある。

 来場者に向けて、今後求められる力として「出る杭」と言われるような突き抜けた能力「出杭力」、未知の領域を自分で切り開いていく「道程力」、目標を自ら設定する「造山力」を挙げた。「こうした力は『屈辱感』や『飢餓感』、『孤高感』が原動力となって生み出されるものだ」(石井教授)。

震災に立ち向かう姿が教えてくれる「生きていることの意味」

 この後、石井教授の講演を受ける形で、復興アプリ/サービス開発支援プロジェクト「Hack for Japan」の軌跡(関連記事)、Hack for Japanのメンバーがかかわる「風@福島原発」、放射線量計を配布する「ガイガーカウンタープロジェクト」、被災した写真を修復する「フォトサルベージの輪」の3グループがそれぞれの活動を紹介。石井教授は「Hack for Japanの活動は、我々が生きていることの意味を教えてくれる」と彼らの活動を讃えた(石井教授のTweet)。