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写真●三菱総合研究所の小宮山宏 理事長(前・東京大学総長)。撮影:新関雅士
写真●三菱総合研究所の小宮山宏 理事長(前・東京大学総長)。撮影:新関雅士
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「日本はすでに、いま日本自身が直面し、かつ世界がこれから直面するであろう課題を解決するだけの潜在能力を持っている。解決に向けて一人ひとりが行動を起こそう」。三菱総合研究所で理事長を務める小宮山宏氏(前 東京大学総長)は、講演に耳を傾ける来場者にこう呼びかけた(写真)。

 2011年10月12日、東京ビッグサイトで始まったIT分野の総合イベント「ITpro EXPO 2011」。小宮山氏は初日の基調講演に登壇。「日本『再創造』~新たな成長に向け、企業とビジネスリーダーが果たすべき役割」と題して、日本が21世紀に進むべきビジョンを来場者に示した。

 まず小宮山氏は「近い将来、発展途上国と言われていた国が、現在の先進国と同じような少子高齢化、エネルギーや資源の枯渇といった問題に直面する」と指摘。「これらの問題にどう立ち向かうか。まさに人類の真価が問われるようになる」と述べる。

 「日本はこれら課題の先進国。私は日本は『課題先進国』だと言っているが、これらの課題から目を背けずに立ち向かうべき。課題こそが技術開発の原動力となり、新しい産業を創出するからだ」(小宮山氏)。

 実際、日本は過去に公害問題を克服してきた。1950年代から1970年代の高度経済成長期、国内ではぜんそくなどの公害病が広がった。「当時私は学生だったが、隅田川はにおいがひどかった」(小宮山氏)。ところが今は人々が屋形船から花火を楽しむほどに浄化されている。「私は『隅田川はダウンタウンを流れる川としては世界で一番きれいだ』と各所で主張している。文句が出てこないので、たぶんそうなのだろうと思う」と小宮山氏はコメントする。また小宮山氏は「多摩川にはアユが遡上する。2000万人規模の人口を要する都市部の川にアユが遡上するというのは、世界でも類を見ないのではないか」とも付け加える。

 克服の背景には、官民による取り組みがあった。まず国や自治体が厳しい排出規制をかけた。製造業はそれに応えるべく、有害物質を取り除く技術開発や設備を設置。有害物質対策に取り組んだ。「すでに当時から日本は課題先進国だった。そして日本は課題から目を背けずに立ち向かい、解決した。そこで培った環境技術は、世界トップレベルの優秀さ。日本が世界に誇るべき偉業だ」(小宮山氏)。

 小宮山氏らは「プラチナ社会」というビジョンを提案している。2050年をマイルストーンとして社会のあるべき姿を描いたもので、現在の先進国が直面しているエネルギーや資源、環境保全などの課題解決を目指すものである。現在は各自治体を軸にして、産学の協力のもとに各種の実験的プロジェクトが進められている(参考:「プラチナ社会研究会」のWebサイト)。

 「高齢化やエネルギー問題など、今日本が抱えている問題は、将来、多くの国が直面することになる」(小宮山氏)。成長著しい中国も、2015年頃には高齢化社会を迎えると言われている。小宮山氏は「日本が自分たちの問題の解決策を見いだせれば、それは今後世界の人類が必要とする解決策となる」と語る。

 プラチナ社会の実現においては、ITが重要な位置を占めるという。小宮山氏はITを「社会イノベーションの共通基盤」と呼ぶ。言うまでもなく、過疎地域に対する遠隔医療や、スマートグリッドを使った効率的なエネルギー基盤にITは不可欠。「ITは課題解決策の実現を支える、基本的なインフラとなる」と小宮山氏はITの重要性を強調する。

 一方で「日本はITの要素技術については優れているものの、社会における活用については、残念ながら先進国とは言えないレベル」と小宮山氏は指摘する。「今直面している課題の解決には、要素技術だけでなく人や組織、利用方法と一体化させた全体システムが求められる。要素は全体システムの中ではじめて生きる。ITを含めた全体システムが世界に輸出できるレベルになるよう、磨いていくことが必要だろう」(小宮山氏)。

 それでも小宮山氏は「日本の技術力と人材力は、すでに数々の課題を解決した実績のある、世界に誇るべきもの」と語る。「今の日本の課題は、従来の延長線上では解決できない。だから『再創造』する気概で取り組むべき。そして日本には、自らを再創造し、問題を解決するだけの潜在能力がある。一人ひとりが行動すれば必ず未来は開ける。だから行動しよう」と来場者に呼びかけた。