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日本情報科教育学会会長で電気通信大学大学院教授の岡本敏雄氏がパネルディスカッションの司会を務めた
日本情報科教育学会会長で電気通信大学大学院教授の岡本敏雄氏がパネルディスカッションの司会を務めた
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東京大学情報理工学系研究科 研究科長の萩谷昌己教授は、「高校までの情報教育を、スキルの習得から仕組みの理解へ転換すべき」と提言した
東京大学情報理工学系研究科 研究科長の萩谷昌己教授は、「高校までの情報教育を、スキルの習得から仕組みの理解へ転換すべき」と提言した
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帝京大学ラーニングテクノロジー開発室 室長の渡辺博芳准教授。帝京大学では1996年から、教科「情報」による入試を実施している
帝京大学ラーニングテクノロジー開発室 室長の渡辺博芳准教授。帝京大学では1996年から、教科「情報」による入試を実施している
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東京都立小石川中等教育学校の天良和男教諭は、大学入試センター試験が教科「情報」を出題対象にすることの効果について語った
東京都立小石川中等教育学校の天良和男教諭は、大学入試センター試験が教科「情報」を出題対象にすることの効果について語った
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 日本情報科教育学会の全国大会で2012年6月17日、高等学校の教科「情報」の大学入試での扱いについて討議するパネルディスカッションが開催された。信州大学工学部(長野市)の会場には、大学や高等学校の関係者が集まり、大学入試センター試験で教科「情報」を出題対象にすることの是非や、大学入試で教科「情報」の内容を出題する際の課題などについて議論した。

 高等学校の教科「情報」は、2003年に新設となった必修の普通教科。「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」などの育成を目指して、コンピューターや通信などの仕組み、インターネットやアプリケーションソフトの利用方法、情報モラルなど幅広い内容を扱っている。しかし、教育現場では、「実際には授業を実施していない」「パソコンの実習などが中心で本来の内容を扱わない」といった問題が生じている。関係者の間では、入試で教科「情報」を扱う大学が少ないことがこうした状況につながっていると分析する声が多い。

 パネルディスカッションでは冒頭、司会を務める電気通信大学大学院の岡本敏雄教授が「今日のテーマは日本国において非常に重要なテーマ。教科『情報』を、日本の教育制度の中にきちんと位置付けることが必要である」と指摘した。

 続いて、長野県長野高等学校の高梨誠之教諭、長野県塩尻志学館高等学校の上條浩教諭、長野県伊那北高等学校の有賀智秀教諭、佐久長聖高等学校の飯島千尋教諭の4人が、教科「情報」の授業の現状や、教科「情報」が大学入試センター試験の出題対象になった場合の影響などについて、それぞれの立場から意見を述べた。大学入試センター試験での出題に期待を寄せる意見がある一方で、「進学校ではどうすれば大学入試に合格するかを考えて授業を行っている。教科『情報』の授業の内容は教員の能力に負うところが大きく、現状でセンター試験の対象になると困る」といった教育現場の実情を踏まえた意見があった。

 その後、東京大学情報理工学系研究科 研究科長の萩谷昌己教授、帝京大学ラーニングテクノロジー開発室 室長の渡辺博芳准教授、東京都立小石川中等教育学校の天良和男教諭の3名のパネリストを中心に、会場の参加者も交えて議論が進んだ。

 東京大学の萩谷教授は、「高校までの情報教育を、スキルの習得から仕組みの理解へ転換すべき」と提言。「高校までに情報システムの基礎や仕組みを理解し、大学では情報システムを構想する力やデザインする力を養うべき。こうした力を持った学士が増えて、さまざまな分野で活躍すれば、日本を変えていく原動力になる」と述べた。さらに、こうした考えを踏まえて大学入試では、「教科の内容だけでなく、情報システムを利活用し構想するためのポテンシャルを量るべき」と主張した。

 帝京大学では、1996年から教科「情報」による入試を実施している。また、大学入試センター試験の数学でも、工業高校などのカリキュラムに対応する科目「情報関係基礎」を用意している。渡辺准教授は、帝京大学の入試科目の「情報」や大学入試センター試験の「情報関係基礎」の内容について解説した。また、出題する大学側から見ると、「情報」による入試は「受験生が少なくコストパフォーマンスが悪い」「問題作成者の確保が困難」「必要な科目であるという理解が大学担当者から得にくい」といった問題点があると指摘した。

 大学入試センターは2012年5月17日、教科「情報」の出題について、高等学校等の教育内容の実態や、大学入試センター試験参加大学のニーズを踏まえ、平成28年度大学入試センター試験においては出題しないこととするが、平成29年度大学入試センター試験以降の出題の可能性について引き続き検討する」という方針を公表している。東京都立小石川中等教育学校の天良教諭は、教科「情報」の出題に関する大学入試センターでの検討の経緯などを説明。大学入試センター試験での教科「情報」の出題は、「教員の嗜好による特定の分野に偏った指導や未履修などを防ぐ効果がある」と述べた。

 こうした議論を受けて岡本教授は、「これからの日本人が国際化社会の中でいろいろな分野のイニシアティブを取る基礎学力の一つに『情報学力』がある。数学や理科、国語などの既存の科目とオーバーラップしない、一般の人たちが“なるほど”と思う『情報』のコアコンピテンシーを学会として掘り起こして育てていかないといけない。それをもって、誰もが納得する形にして『情報』を大学入試センター試験に入れていきたい」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。