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 「もっと,やる気を出せって? 自分がやりたい仕事じゃないんだから,どうしようもないさ」---。5年前のことだが,常に前向きだったITエンジニアの友人Aさんがこうこぼしたのを今でも覚えている。

 Aさんは学生時代からITエンジニア志望だった。コツコツと努力を積み重ねて,第1希望の大手システム・インテグレータへの入社を果たした。就職倍率が100倍を超える難関だったこともあり,Aさんの喜びはひとしおだったという。入社後,Aさんは,大手コンピュータ・メーカーの同世代に比べて2倍近い給与をくれる会社に愛着とプライドを感じ,「少しでも早くプロフェッショナルとして自立したい」と,毎日深夜まで仕事にいそしんだ。まさに,やる気に満ちあふれていた。

 しかし4年もすると,すっかり様子が変わった。飲みに行った席で,会社や上司に対して愚痴が出るようになった。「上司はちっとも分かってくれない」,「そもそも苦労して入るような会社じゃなかった」---。こんな調子で,以前のようなやる気はどこかに消え失せていた。

原因は「やりたい仕事ができない」

 Aさんがやる気をなくした原因は明快だった。興味のある仕事を担当できなかったからだ。Aさんが興味を持っていた仕事とは,オブジェクト指向による設計開発である。ありふれた仕事のように思えるかもしれないが,当時は業務システムの開発にオブジェクト指向技術を適用するケースはそれほど多くなかった。しかもAさんが所属する部署の主力業務は,メインフレームを使った基幹システムの保守開発。Aさんがオブジェクト指向の設計開発に携わるには,別の部署に異動するしか手はなかった。

 Aさんは異動希望を,上司に何度も伝えた。しかし上司は「ごちゃごちゃ言わず,目の前の仕事に全力投球しろ」と言うばかり。まともに取り合ってはくれなかった。Aさんがどれだけ仕事で頑張っても状況は変わらず,次第に「しょうがない」とあきらめるようになっていった。冒頭の言葉は,そんなときにAさんが漏らしたものだ。

やる気を損ないやすい状況が進展

 やる気は自分を成長させるうえで大きな原動力になる。このことに異を唱える人はいないだろう。しかし,それだけ重要であるにもかかわらず,いとも簡単に,やる気は損なわれる。

 やりたい仕事を割り当ててもらえない,何にどう役立つシステムなのかはっきりしない,プロジェクト・チームの間で意見がまとまらない,客先常駐で疎外感にさいなまれる,いつも時間に追われている---。ITエンジニアのやる気を損ねる要因は,至るところに存在する。なかでも象徴的なのが,「システムは正常に動いて当たり前」というユーザーの考え方だ。正常に稼働しても感謝の声はほとんどなく,トラブルが起きればたちまち非難が巻き起こる。その意味で,そもそもITエンジニアの仕事はやる気を損ねやすい。

 しかも「目標管理制度の普及によって,ITエンジニアがやる気を生み出しにくい状況がますます進んでいる」と指摘する声もある。「着実に目標を達成するには,新しい技術を導入したり,設計開発のプロセスを改革したりするといった“冒険”はやりにくい。おのずと無難な目標を設定することになり,仕事に面白みが欠けてしまう」(エクサの児玉公信 第3事業部門付SPBOMソリューションオーナー 兼 技術部担当部長)。

自分のやる気の傾向を把握することから始める

 だからといって,やる気が出ない状態を放置していいわけがない。やる気がなければ,仕事のパフォーマンスが高まらず,ITエンジニアとしての成長が鈍化する。そのうえ,激務に耐えられず,うつ病など心の病になることさえある。

 では,やる気を高め維持するにはどうしたらいいのか。その第一歩は,どんなときに自分のやる気が高まり,どんなときにやる気を失うのかを認識することだ。やる気に関するコンサルティング事業を手掛けるJTBモチベーションズの野本明日香コンサルタントは,自分のやる気の経年変化を折れ線グラフで表すことを勧める。「縦軸にやる気の高さ,横軸に時間を取り,ITエンジニアになったときから今に至るまでを思い出しながら,大まかにやる気がどう上がり下がりしたかを折れ線で書いていく。やる気が上がり下がりしたときに着目して,そのときに何があったのかを考えれば,自分のやる気が何に反応しやすいのかが見えてくる」(野本氏)。

 そのうえで,自分のやる気を高める状況を作り出し,やる気を損なう状況を避けるにはどうすればよいかを考える。例えばお手本となる人がいるときにやる気が出る場合は,そういう人を社内外を問わず積極的に探す。社外のコミュニティに参加するのも一つの手だ。

主体的にやる気をマネジメントする

 上司や会社などのせいにしてあきらめるのではなく,自分でやる気をマネジメントする。今必要なのは,この姿勢ではないだろうか。

 冒頭で紹介したAさんは,やる気を失った時期がしばらく続いたあと思い切って,オブジェクト指向開発で定評がある中堅システム・インテグレータに転職した。収入は半分近くまで減ったが,やる気は大いに高まった。やる気があれば,スキルがぐんぐん伸びて成果も上がる。転職してから5年後の現在,Aさんの収入は最初の大手システム・インテグレータにいたときを上回るようになった。

 日経ITプロフェッショナルは2006年1月号(1月1日発行)で,ITエンジニアのやる気に関する特集記事を企画している。ITエンジニアがやる気に関して,どんな傾向や悩みを持っており,どうすれば主体的にやる気にを高め維持できるかを,心理学やコミュニケーション術,チーム運営の仕組みといった観点から提示する。

 特集の内容をより役立つものにするために,ITエンジニアのみなさんに,やる気に関するアンケート調査へのご協力をお願いしたい。調査結果は,日経ITプロフェッショナル1月号に加えて,この「IT Pro 記者の眼」の欄でも1月上旬に公表する予定だ。

中山 秀夫=日経ITプロフェッショナル