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 今回の動かないコンピュータ・フォーラムは予定を変更して,少し時事的なテーマを追いたいと思う。取り上げるのは,東京証券取引所をはじめとする,全国の証券取引所におけるトラブルである。

 今年は証券取引所のシステム・トラブルに揺れた1年だった。12月には,みずほ証券が61万株という大量の株式を誤発注し巨額の損失が発生するという事件が起きたが,注文の取り消し指示を受け付けられないという,東証のシステムの不具合が,これに関係していたことが分かった(関連記事)。同じく東証では,11月に大規模なシステム障害が起きたことも記憶に新しい。

 このほか,大阪証券取引所やジャスダック証券取引所,名古屋証券取引所がシステムに関連する問題に直面した。日経コンピュータでも,大証とジャスダックについては本誌の動かないコンピュータで取り上げた。東証の大規模システム障害についても,11月14日号と11月28日号の2号にわたって連続でレポートとして取り上げている(ここここからレポートをご覧になれます)。

 この問題について,皆さんとともにまとまった形で考えたい。

全銘柄の売買停止に追い込まれた東証

 まず証券取引所を巡るトラブルを振り返ってみたい。

 最も直近のトラブルである東証のシステム障害は11月1日に起きた。日経コンピュータ11月12日号の記事から内容を引用しよう。



 11月1日の午前6時30分。東京証券取引所(東証)の売買システムの中核である「株式業務サーバー」の立ち上げ処理が途中停止した。結局,システムが復旧し,売買を再開できたのは同日の午後1時30分のことだ。

 この間,東証1部・2部とマザーズの上場株式2401銘柄に加え,転換社債型新株予約権付社債券(CB),交換社債券のすべてが売買停止となった。「システム障害により全銘柄の売買が停止したのは初めて」(東証)。東証に加え,東証のシステムを利用している札幌,福岡の両取引所でも売買がストップした。

 株式市場が活況を呈している最中の大規模障害だけに,一般紙やテレビのワイドショーまでがトップ・ニュースで取り上げた。


 東証の売買システムがダウンした原因は,取引の開始に欠かせない会員の証券会社などを登録したデータが正常に読み込めなかったこと。東証は10月に,取引の増大に対応してシステムの増強作業を実施したが,作業の過程でミスを犯し,11月になって障害が起きた。

 いったん増強したシステムのソフトにバグが見つかったため,これを修正したが,その過程で不適切な作業があった。具体的には,システムの開発と保守・運用を担当する富士通が作成した手順書に誤りがあり,手順書の通りに作業すると,月末に実行する月次処理によって障害が発生するようになっていた。

処理能力不足に陥った大証,障害繰り返したJASDAQ

 大証で起きたトラブルは,大規模なシステム障害によるものではないが,別の意味で深刻なものだ。まず今年4月から数カ月にわたって,大証では新興市場であるヘラクレスで,株価の情報配信や約定処理に遅延が発生した。処理能力を超える株式取引が続いたことが直接の原因である。この問題に対して大証は,システム面での抜本的な対策を施せなかった。

 そのため大証は,10月末まで新規上場の受け付けを停止する事態に追い込まれたのだ。ヘラクレスへの新規上場企業が増えることで,取引数が増えて情報配信や約定がさらに遅延することを避けたわけだが,新規企業の上場を凍結させるという判断は,証券取引所の重要な業務の一つを停止することそのものだ。

 大証は何の手も打たなかったわけではない。取引量が増加するにつれてヘラクレスのシステムを増強していたが,それが限界に達してしまった。現在,大証がヘラクレス向けに利用しているシステムは,すでに生産中止になったメインフレームであり,より高性能な代替機をすぐに入手できる状況にはない。現在,生産しているメインフレームの場合,受注から動作検証などを済ませて納品するとなると6カ月程度が必要だという。ここで,大証は打つ手をなくしたのである。

 また大証が,ここまで深刻なトラブルに直面した背景には,新しい基幹システムの稼働の遅れもある。本来,2005年の夏を予定していたシステムの稼働が2006年にずれこんだのだ。これにより,処理能力の増強にあまり余地のない現行システムを使い続けなくてはならなくなった。

 JASDAQでは,今年に入って3度のシステム障害が起きている。2月には1時間20分取引の開始を遅らせ,8月には午前中の取引を中止することになった。さらに4月には新規上場したある銘柄が上場したその日に売買停止になる事態も起きている。

 原因は,プログラムのバグやベンダーの設定ミス,想定外に多かった注文の取り消し処理に対応できなかったこと,などそれぞれのトラブルによって異なる。度重なるトラブルを受けて,JASDAQは,9月末に抜本的な防止策を出すことになった。主な内容は,IT関連の意志決定機関の設置や,システム子会社の組織・人員の強化,運用管理規程の整備,検証体制の見直し,事業継続計画の策定といったところだ。

 いくつかの取引所では,減給や降格といった役員の処分も発表された。東証のシステム障害に関連しては,ベンダーである富士通も減給などの処分を実施した。

想定外に急増する取引は凶器に近い

 なぜ,これだけ証券取引所で障害やトラブルが頻発したのだろうか。

 一つの背景となっているのは,取引の急増だろう。ネットで取引する個人投資家の増加や,プログラムによって実行される,機関投資家などからの大量の取引注文によって,株式取引数は急増している。これによって,ハードの増強やプログラムの保守作業の量も増えている。こういった作業の急増がトラブルの発生確率を上げていることは間違いあるまい。

 証券取引所に限らず,想定外の処理量の増加は,多くのシステムに問題を生じさせてきた。昨年は,外貨証拠金取引ブームの到来によって,ネット為替取引システムが相次いでダウンした。数年前には,コンビニATM(現金自動預け払い機)や郵便局などから取引できるようになったことで,銀行の勘定系システムに障害が起きたこともあった。