PR

 パソコンや電話機だけでなく,デジタルテレビもFTTH回線に接続され,さまざまな通信・放送サービスがすべてIP方式で提供される。IP対応のデジタルテレビでは,地上デジタル放送を含めた全番組が視聴可能になる---。こうした「オールIP」の通信・放送環境が,2008年までに日本の家庭で実現しそうだ。オールIP化により,通信と放送の連携(融合)サービスが花開くことが期待される。

地上デジタル放送のIP再送信が可能に

 現在,FTTH回線を使って地上デジタル放送をIP方式で再送信(IP再送信)するための検討が,総務省・情報通信審議会の「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」で進められている。検討委員会は2005年7月に出した答申で,「ハイビジョン品質によるIP再送信を2008年に始める」などとする方針を打ち出した。

 既にIP方式による放送サービス(IP放送)は「有線役務利用放送」として制度化されているが,地上デジタル放送などについてはNHKや民放各社が技術面や著作権処理の問題などを理由に再送信を認めていない。これまでIP放送があまり普及しなかったのも,地上デジタル放送のIP再送信ができないためなどといわれてきた。検討委員会では現在,その実現に向けて技術面や制度面などさまざまな角度から検討を進めている。IP再送信の実験サービスも2006年に始まる見込みである。

 総務省などがこうしたIP再送信の実現を目指す第一の目的は,地上波放送(テレビ放送)の完全デジタル化の実現である。2011年7月には現行の地上アナログ放送を終了して,地上デジタル放送に完全に移行することが既に法律で定められている。つまり,2011年にアナログ放送が見られなくなるため,それまでに日本全国でデジタル放送を視聴できるようにしておく必要がある。しかしこれに対して民放事業者などは,山間部や離島などの「条件不利地域」でコストの面からデジタル放送用中継局を整備できないエリアが残るとしている。そのため,こうした放送波が届かない「デジタル難視聴エリア」の解消に向けて,補完的な伝送手段としてFTTH回線を活用する手法が急浮上した。

 そのうえで,条件不利地域に限定してIP再送信を行うのはFTTH回線を整備する通信事業者にとっても厳しかろうと,エリアを問わずにIP再送信を認める方針が打ち出されたわけである。現在NTTグループが,FTTHサービス「Bフレッツ」を使ってIP再送信を可能にしようと準備を進めている。

IP再送信対応のデジタルテレビが融合促進

 実はIP再送信の推進を目指す総務省には,放送の完全デジタル化という目標に加えて,「通信・放送融合」の分野で世界最先端を目指すという大きな狙いがある。「7月の答申でも,このことを前面に出したかった」(関係者)というのが本音のようだ。地上デジタル放送のIP再送信が可能になれば,FTTHサービスの普及をより一層加速する効果が見込める。さらに,欧米などでは米Microsoftの端末用ソフトウエアを使ってデジタル放送のIP再送信を実現する事例が増えつつある。このままではテレビ受像機市場で世界的なシェアを持つ日本の家電メーカーの立場も危くなるとの危機感があり,通信・放送融合時代に向けてIP再送信を推進しなければならないとの思いもあるようだ。

 こうしたなか,既にIP再送信の受信機能をデジタルテレビに内蔵するための規格作りが水面下で始まった。2007年以降にはIP再送信対応の製品が発売されることになりそうだ。この場合,地上デジタル放送を見るためにデジタルテレビがデフォルトでIPネットワークにつながることになる。それにより,デジタルテレビを対象にした各種の通信・放送融合サービスを提供するための下地が整う。

 例えば,番組で紹介された商品の注文や懸賞応募といった双方向サービスの利用も増えるだろうし,デジタルテレビ向けのVODサービスなどの提供も見込まれる。さらに,デジタルテレビにUSBやメモリーカード・スロットを搭載し,デジタル携帯プレーヤー向けに映像や音楽のコンテンツをダウンロードできるようにもなるだろう。つまり,現時点ではパソコンとIPネットワークの組み合わせで成り立っているさまざまな市場を,家電の世界に取り込むことが可能になってくる。

 確かに地上デジタル放送のIP再送信を巡っては,著作権法上の解釈や映像品質といった技術的な問題など,「放送」の観点から数多くのハードルが残されている。その解決は一筋縄ではいかないだろう。ただ,総務省がオールIPを念頭に置いた通信・放送融合を目指す限り,IP再送信を推進する方向性は変わらない。いずれにしてもIP再送信に関しては,地上波放送の完全デジタル化とともに,通信・放送融合という観点でその動向を注視しておく必要がある。

(渡辺 博則=日経ニューメディア