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 景気が徐々に上向いてきたとはいえ,ユーザー企業が利用できる年間のIT予算には限りがある。IT予算が潤沢なシステム開発現場は,ほんの一握りにすぎない。そうした一部の“お金持ち”の現場を除き,多くの担当者は「予算不足で買いたい機器も買えず,改修作業もままならない」といった現実に頭を悩ませている。

 財団法人A社は,アプリケーションの改修費用が工面できずに苦労していた。前任の担当者が数年前に構築したWebシステムは,度重なる制度変更などで改修の必要性が生じていた。そのシステムを引き継いだ後任の担当者は,システム構築を依頼したベンダーに改修の相談を持ちかけたところ,「1枚のWeb画面を改修するのに30万円かかる」と告げられたという。「改修対象のWeb画面は1枚や2枚でない。制度が変われば,改修の必要性も継続的に発生する。予算がいくらあっても足りない」(後任の担当者)と頭を抱える。

 予算不足から約30万円のルーターの購入をあきらめた企業もある。通信販売業B社は,2004年に黒字転換したばかりだった。全社的にコストを抑えることが絶対条件だったため,IT予算もその影響をもろに受けた形だ。結局,担当者はルーターの購入を断念した。

 こうした悩みは大手企業も無縁ではないが,予算額が圧倒的に少ない中堅・中小企業の方が,制約が大きく悩みは深い。

社員を募集しても集まらない

 予算不足に加え,人材不足を訴える声も取材を通じて多く聞かれた。外食チェーンを展開するC社は,1年近くも正社員の採用活動を続けてきたが「外食産業に興味があり,ITの仕事を引き受けてくれる良い人材が見つからない」(C社の担当者)と,半ばあきらめ顔で話す。

 製造業D社も同様の悩みを抱えている。D社は,基幹系の製造/販売管理システムやCRM/SCMシステムなど,社内で利用する業務アプリケーションのほぼすべてを内製している。そうした体制を維持していくためには,人材の確保が重要だが,「大手銀行のような知名度がある会社ではないので,IT部門で新卒社員を募集してもまず集まらない」(D社の担当者)。

 人材不足の悩みは,「頭数の不足」と「スキルの不足」に大別できる。特に頭数の不足は,中堅中小企業で顕著な問題である。従業員数が数百名規模の会社でも,IT部門の担当者が1人あるいは数人しかいないケースがざらにあるからだ。担当者の絶対数が少ない現場では,エンドユーザーのサポート業務などが,担当者の肩に重くのしかかっていた。

スキル不足が無駄な出費を招く

 一方,スキル不足の悩みは,より根が深い。冒頭のA社は,改修コストが重荷となり予算不足に直面していた。しかし,根本的な原因は担当者のスキル不足にあるとも言える。なぜなら,前任の担当者がシステム構築をベンダーに“丸投げ”した結果,データベースの設計がブラックボックス化した。そうなってしまっては,アプリケーションの保守・改修は,ベンダーに依頼せざるを得ない。その費用は,いわばベンダーの言い値。スキル不足でその妥当性が判断できなければ,予算がいくらあっても足りるわけがないからだ。

 予算不足を乗りきるには,コストを抑える取り組みが不可欠だ。ベンダーへの丸投げで改修コストが膨らんでいたA社は,技術に長けた後任の担当者がIT部門に加わったことで,ある程度の改修は自分たちで行うように運用を変えた。丸投げ体質からの脱却に成功し,外部への出費を抑えることができた。

お金の“張りどころ”を見極めよう

 ここで問題になるのは,社内にどうやってスキルを蓄積するかだ。スキルを備えた経験豊富な人材は,他社から引き抜くなどしない限り,突如現れるケースはまれだ。初めからスキルを備えた人材を社員として迎え入れることが難しいなら,計画的に人材を育てるしかない。

【IT Pro編集から】前パラグラフ中にあった誤字(「向かい入れる」→「迎え入れる」)を訂正しました(2006年1月5日)。

 だが,人材育成には長い時間と多額の費用がかかる。一朝一夕にとはいかない。人材育成にお金をかけるぐらいなら,スキルを備えた派遣SEをスポットで採用した方がコスト・メリットがある---。そう判断する企業もあるはずだ。人材を確保する際の適切な手段は,ユーザーの環境ごとに異なる。一概に「これが正解」「それは間違っている」とは言い切れない。

 ベンダーや派遣SEなど,外部の力を頼りにすることは決して悪ではない。特に,IT部門の担当者の数が少ない中堅中小企業では,外部の力なくしてはシステム構築そのものが難しいケースが多い。ここで重要なのは,「どこにお金を投じるべきか」を見極める作業である。この作業を放棄した瞬間が,「丸投げの始まり」だと記者は考える。

 日経システム構築 の1月号特集では,中堅・中小企業を中心に,コスト意識の高い担当者から,限られた予算をどこに投じてきたのか「お金の使い道」を聞いた結果についてまとめた。賢明な担当者は,ムダを削るだけでなく,メリハリを付けてIT予算を有効に活用していた。

(菅井 光浩=日経システム構築