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 私事で恐縮であるが,先日,千葉県の外房地域の某市に転居した。東京都心までの距離が約60km,普通列車で1時間半程度にもかかわらず,見渡す限りの田畑や雑木林に囲まれた閑静な場所で,大変気に入っている。太平洋にも近い。

 概ね満足のいく転居であったが,一点だけ不満がある。インターネットへの接続環境である。これまで,東京都や埼玉県を転々としてきたが,ADSL接続サービス普及後は,どこの住まいでも下り3~4Mビット/秒の回線速度を得られていた。それでも当時は「遅い」と文句を言うことが多かった。「日経Linux」に配属だった関係で,Linuxディストリビューションや各種のフリーソフトを頻繁にダウンロードする必要があったためだ。

 それがどうだろう。転居後にADSL接続サービスをNTT東日本に申し込んだところ,その調査で初めて,電話回線が光収容であることを告げられた。つまりメタル回線に変更しなければADSL接続サービスを利用できない。空きメタル回線があるかどうかも調べてみないと分からないという。同社の「Bフレッツ」や,東京電力の「TEPCOひかり」も提供エリア外。CATVなどの他のブロードバンド接続サービスも全く提供されていない。最悪の場合,通信速度64kビット/秒の「フレッツ・ISDN」の利用を覚悟しなければならない状況である。

 幸いメタル回線の空きが見つかり,「116」の担当者が「線路長が8.5kmなのでリンク確立しない可能性が高い」というのを押して作業してもらったところ,フレッツ・ADSLモア3の長距離通信モード(FBMsOL)で,下り200kビット/秒の速度でリンクできた。数カ月後,より長距離に強い「Reach DSL」方式を採用するソフトバンクBBの「Yahoo! BB リーチDSL」に空きができ,それに切り替えることで,下り360kビット/秒程度にまで速度を向上できた。この速度ならば,コンピュータで通信していなければ,IP電話も利用できる。

ISDNも頼りにならない

 ぞっとしたのが,最初にADSLの接続工事をした際,工事担当者に「この地域は,ISDNもつながらない場合が多い」と告げられたことだ。調べてみると「フレッツ・ISDN」で使用する「INSネット64」では,伝送損失が50dB以下でなければならないとされている。我が家の場合,光収容時にも伝送損失が55dBあった。いくつかの長距離化策があるとは言え,なるほど,つながらないこともありそうだ。

 それにしても,離島や山間部でもない首都圏(と言って良いか微妙だが)の市部で,ISDNの利用すら危うい状況であるというのには驚いた。試してはいないので,実際にはサービスを受けられた可能性はあるが,少なくとも筆者がばく然と考えていた「最悪の場合でもISDN」というのが思い込みに過ぎないことだけは確かだ。

 ISDNすら使えないとなるとダイヤルアップ通信に頼るしかない。ダイヤルアップ通信の最高速度は56kビット/秒,定額通信となる時間も午後11時~午前8時に限られる。そうなった可能性を考えると,現在の接続速度に不満はあれど,筆者の場合はまずまずラッキーだったと言える。

難しい事前調査

 ここまでお付き合いくださった読者の方の大半は,「それぐらい転居前に調査しなかったのか」と疑問に思われているに違いない。もちろん,ある程度のことは事前に把握していた。例えば,BフレッツやTEPCOひかり,CATVのサービス提供エリア外であることは,各社のWebページを通じて分かっていた。

 ところが,電話回線が光収容であるか否か,メタル回線の空きがあるかどうか,収容局からの線路長がどの程度であるかといったADSL接続サービスに必要な情報はどこからも得られないのである。転居先の電話番号が決まっていれば,NTT地域会社が提供する「線路情報開示システム」(NTT東日本はhttp://www.ntt-east.co.jp/line-info/consent.html,NTT西日本はhttp://flets-w.com/adsl/kyori/ryuijiko.htmlで提供)である程度の情報は調べられるが,物件選定時には電話番号が決まっていないため,このシステムは利用できない。

 なんとか住所で調べる方法はないものかと探してみたのだが,NTT地域会社はもちろん,各DSL業者も住所での情報は一般ユーザーには提供していない。NTT東日本の収容局については,「収容局毎のカバーエリア」のページで調べられるが,その先がどうにもならないのである。当然,「116」に電話しても教えてはくれない。

 近所にある店舗などが公開する電話番号で調べる方法はある。しかし他人の電話番号を本来の用途外に利用するのは問題であろうし,相当程度に近所でなければ,どの程度参考になるのか分からない。また,得られるのも線路長や伝送損失の目安だけであり,光収容であるかどうかははっきりとは分からない。光収容の場合は線路長などの情報が表示されないと書いてあるので,情報が表示されれば光収容ではなさそうだと推測できる程度である。結局,実際にどうなのかは「転居しなければ分からない」のである。

 ちなみに我が家の場合は,直線距離で500mほどのところにある病院の電話番号で調査した。その結果得られた線路長は6.7km,伝送損失は46dB。線路情報開示システムのQ&Aには,光収容の場合は調査結果が表示されないと記載されているが,それが表示されたのだから「光収容ではない」と判断した。しかし,実際には光収容で,収容替えしたメタル回線は線路長8.5km,伝送損失は72dBもあった(ADSLモデムの情報による)。

地域差は仕方ないが…

 今回の体験を通じて,インターネット接続環境の地域差がいかに大きいかを痛感した。片や3M~4Mバイト/秒の接続を実現しており,数十Mバイト/秒の光ファイバを使った接続サービスも利用可能という状況,片や320kビット/秒が最高,下手をすると56kビット/秒のダイヤルアップ接続という状況である。場合によっては,通信速度に1000倍もの差が出る。

 これだけの通信速度差があると,ネットワークの利用形態に質的な差が出てくる。単にWebブラウジングやファイル・ダウンロード作業の快適性の問題にとどまらない。受けられるサービスの品目にも大きな差がある。IP電話も満足に利用できないとなると通話料にも影響する。

 こう書くと誤解されそうであるが,筆者は,このような地域差そのものは,ある程度仕方ないことだと考えている。通話サービスのようなユニバーサル・サービスとして位置付けられていない以上,民間企業が採算性を度外視したサービス提供をすることはあり得ない。NTTの場合はその成り立ちから一概に言えない面もあるが,公平性の確保は,住民の要求に従って地方自治体や国が実施するのが本筋だろう。

 ただ問題としたいのは,サービスにこれだけの地域格差があるにもかかわらず,事前にそれが分からないことである。事前情報が提供されていれば,居住地域の選択は,それこそ自己責任だと言い切れる。しかし現在のように,転居してみないと分からない状況では,この格差を容認しづらい。インターネットが単なる趣味嗜好の時代ならともかく,公的な情報の提供や,選挙活動や投票の手段としても考えられるなど,一種のインフラとして働き始めている現在では特にそうだ。そして転居前の判断材料とすることを考えるならば,「住所」をベースにした情報提供が不可欠ではないだろうか。

 ただ,NTT東日本によると,住所に基づいた情報提供を望む声は「無いわけではないが,数としては多くない」(NTT東日本広報室の田中 龍介氏)という。しかも同社のシステムでは情報を電話番号をキーに管理している。「住所をキーとして線路情報を検索できるようにするには,新たにデータベース整備やシステム改善等が必要」(同氏)だ。同一住所でも回線の状況が異なる場合があり,その調査も考えるとばく大なコストがかかる。今後のニーズ次第では,システム変更の可能性はあると言うが,なかなか難しいのが実情のようだ。

 このコラムを読まれた皆さんはどのようにお考えだろうか。ごく限られた利用者の問題であるのか,光回線の敷設が進めば解消する一時的な問題であるととらえられたか,また,こんな事前調査の方法があるなど,ご意見を寄せてくだされば幸いである。

末安 泰三=IT Pro