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 携帯電話/PHSの「公私分計」というサービスをご存じだろうか。

 1台の携帯電話/PHS端末で発生する通話料金を,かけた相手によって業務利用の「公」とプライベート利用の「私」に分けて集計し,別々に明細書を発行したり,料金請求先を分けられるサービスである。中には,曜日・時間帯で公私を区別したり,毎月一定額までを会社負担にできるサービスもある。まだ数は少ないが,Webアクセスなどのパケット通信を対象にしたサービスも登場している。会社貸与の端末でプライベートな利用を許可したり,個人所有の端末を業務にも流用する場合に役立つサービスと言える。

 ところが,この便利なはずの公私分計サービスは,現状ではあまり使われていない。ケータイ on Businessが「ユーザー企業」に勤務する1000人を対象にアンケート調査を実施したところ,仕事で携帯電話/PHSを使っている人のうち,公私分計サービスを利用している比率は5%にも満たなかった。個人所有の端末を仕事にも使っている人の90.9%は通話料を全額個人で負担しているし,会社貸与の端末の利用者は95.7%の人が通話料の全額を会社が負担していると答えた。

 記者は,公私分計サービスの拡充,特に個人契約の端末を対象にしたサービスの充実こそが,企業でのモバイル活用の起爆剤になると見ている。

 最近の携帯電話/PHSは,WordやExcelといったオフィス文書が読めるなど10年前のパソコン並みの性能・機能を備え,メガビット・クラスの高速データ通信が可能になり,データ通信が使い放題の定額制料金メニューも選べるようになった。業務に活用する環境はここ数年で急速に整った。だが,モバイルの業務活用に火が付いたとは言えない状況が続いている。突破口は,個人所有の端末を業務に生かしやすくすることではないだろうか。

会社にとって年間で数千万円のコスト削減になり得る

 携帯電話の契約数は2005年末に9000万に達し,PHSも合わせると9500万を超えた。ビジネス・パーソンは,ほぼ全員が持っていると言えるだろう。個人は平均2~3年で端末を買い換えるので,新しい高性能機がかなりの比率で行き渡っていると考えてよさそうだ。

 ところが,このせっかくの高性能端末を業務に生かそうとしても,個人所有の端末を対象とした公私分計サービスが限られる。業務利用にかかった通信コストを会社負担にしにくく,結局断念せざるを得ない場合が多い。

 公私分計サービスは,NTTドコモ,KDDI,ボーダフォン,ウィルコムといった携帯電話/PHSサービス事業者はもちろん,NEC,NTTコミュニケーションズ,NTTデータ,ドコモ・システムズ,富士通ビー・エス・シーなども提供している。だが,対象を法人契約の端末に限ったサービスが多かった。会社貸与の端末をプライベートで利用した際の料金を社員に負担させることはできても,個人所有の端末を業務に使った場合の費用を会社払いにするのが難しかったのである。

 企業にとって,社員の個人所有の端末を業務に転用するメリットは,思いのほか大きい。まず,1台数千円の月額基本料を支払わずにすむ。社員1000人に会社契約の端末を貸与する場合に比べて,年間で数千万円のコスト削減になる。社員に対し何割かの“補助”を出しても,まるまる支払うのに比べれば負担を減らせる。

 個人が所有する端末は比較的新しい機種が多いので,利用できるアプリケーションの自由度が高いのもメリットだ。放っておいても多くの社員は2~3年のサイクルで端末を買い換えていくはずだから,進化を続ける端末の陳腐化リスクも避けられる。そのうえ,ともすれば初期導入時よりも膨らみがちな端末更新のコストまで回避できる。また,業務利用分を会社がきちんと負担する仕組みがあれば,コスト増を恐れて社員がモバイル端末の業務利用を控えてしまう心配もない。一方,社員も,会社補助の恩恵を受けられるかもしれないし,2台の端末を持ち歩く煩わしさからも解放される。

 実は,つい最近まで,個人所有の端末を対象にしたパケット通信の公私分計サービスが通話向けに比べて少ないことが,もう一つの課題だと認識していた。個人所有の端末を仕事にも使わせるからには,通話もデータ通信もともに公私分計できなければ,結局は個人用とは別に業務用に会社貸与の端末を支給せざるを得なくなるからだ。ただ,このハードルは解消される見込みが出てきた。パケット定額制の利用者が増えれば,アクセス先ごとの細かい分計は不要になる。会社は必要なら,毎月一定額を社員に補助する形にすればすんでしまう。また,アプリケーション利用時の契約事業者や機種による相違は,Webシステムにすれば吸収は難しくない。

 つまり,残る大きなハードルは,個人契約の端末を対象にした通話の公私分計サービスの拡充である。これがクリアされれば,個人所有の高性能な端末を業務用にフル活用する取り組みが一気に広がる可能性が出てくる。携帯電話/PHSは,営業・保守・配送といった特定部門の社員だけを支援するためのクローズドなツールから,大多数の社員の仕事を横断的に支援するパソコンと同様のビジネスITインフラへと飛躍する道が開ける。

個人端末の業務活用を促すシステム/サービスが登場

 現状では,携帯電話/PHSサービス事業者は,個人市場が飽和に近づいていることから,法人契約の端末数を増やすことに注力している。こうした状況では,個人契約の端末を対象とした公私分計サービスの拡充には踏み切りにくいだろう。

 だが,携帯電話/PHSの業務利用がブレークすれば,通信量が増大して端末当たりの収入は増えるし,システム・インテグレーションの需要も拡大するはず。企業に対し,社員の個人端末の活用を促すことこそが,全社横断的なモバイル活用を広範な企業に普及させる早道なのではないだろうか。

 2005年以降には,個人所有の端末を業務に生かせるようにすることを狙った公私分計サービス/システムが実際に登場している。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「Click to Connect」(C2C)サービス,NTTドコモの「マルチナンバー」サービス,NECの「UNIVERGEケータイポータル」システムなどだ。

 NTTコムのサービスとNECのシステムはともに,ネットワーク上の電話帳サーバーを介して業務用の通話を発信することで,公私の分計を実現する。取引先の担当者の氏名や電話番号といった個人情報をサーバー上に保持するため,端末紛失時に情報が漏えいするのを防ぐ効果もある。NTTドコモのマルチナンバーを契約すると,発着信が可能な電話番号を最大2個追加でき,番号ごとに料金請求先を分けられる。

 NTTドコモのサービスはFOMA 901iシリーズ以降の機種でしか使えないが,NTTコムのサービスとNECのシステムは,NTTドコモ,KDDI,ボーダフォンの広範な携帯電話に対応できる。

 利用できる契約事業者や機種が幅広いほど,企業にとって社員の個人契約端末を業務に活用しやすくなる。サービス利用料金の低廉化や,発信操作・契約支払い事務処理の簡素化を含め,個人契約の端末を対象とした公私分計サービスのいっそうの拡充を,サービス事業者/インテグレータ各社に強く望みたい。

井出 一仁=IT Pro

■変更履歴
本文最後から2番目の段落中,初出時にはNTTコムのサービスは,「現状ではNTTドコモ端末だけに対応する」とありましたが,ネットワーク上の電話帳サーバーへのアクセスは,ブラウザを装備したKDDI,ボーダフォンの端末からでも可能です。文中の表記は修正済みです。[2006/02/06 22:15]