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米国本社オフィスに掲げられているホワイトボード。Googleのエンジニアたちが,勝手に書き足していったもので,個別の要素が,ソフトウエア,ハードウエア,技術などに色分けされている。既に実現済みのものにチェック・マークが付けられている。広報担当者は,「あくまでもジョーク」といっているが,エンジニアたちが自由な発想と大きなビジョンを持って仕事をしている様子がうかがえる。(日経エレクトロニクス2月13日号特集の取材時に,林幸一郎氏が撮影)
米国本社オフィスに掲げられているホワイトボード。Googleのエンジニアたちが,勝手に書き足していったもので,個別の要素が,ソフトウエア,ハードウエア,技術などに色分けされている。既に実現済みのものにチェック・マークが付けられている。広報担当者は,「あくまでもジョーク」といっているが,エンジニアたちが自由な発想と大きなビジョンを持って仕事をしている様子がうかがえる。(日経エレクトロニクス2月13日号特集の取材時に,林幸一郎氏が撮影)
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昼食時のGoogleオフィス。社内での飲食代はすべて会社負担。キャンパス内には,スパやジム,マッサージ・ルームなどがあり,福利厚生が手厚いことでも有名だ。
昼食時のGoogleオフィス。社内での飲食代はすべて会社負担。キャンパス内には,スパやジム,マッサージ・ルームなどがあり,福利厚生が手厚いことでも有名だ。
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日経エレクトロニクス2月13日号
日経エレクトロニクス2月13日号
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 「Google株が急落」。1月31日,世界中をこんなニュースが駆け巡った。米Google社は同日,2005年度第4四半期の決算を発表したが,同社としては初めて予想利益を下回ったため,株価が急落した。1月31日に432.7ドルだった同社の株価は,1週間後の2月7日に367.9ドルにまで下がっている。

 しかし,これはGoogle社ならではの現象と言えよう。というのも,決算の内容は,売上高が前年同期比約1.9倍の19億2000万ドル,純利益が約1.8倍の3億7200万ドルという,通常なら「絶好調宣言」をしてもいい業績だったからだ。同社に対する期待感があまりにも高いために,市場が敏感に反応した,と考えられる。

 同社の株価下落が今後も続くかどうかについては,アナリストはさまざまな見方を示している。だが,長い目で見ればそれは一時的なものに過ぎないだろう。創業からわずか7年で,年間61億4000万ドルも売り上げる企業に成長したGoogle社の進撃はまだ続く,と記者は見ている。

軸足はあくまでもWWWサイト検索に

 Google社がこれからも伸びるであろうと考える理由は複数あるが,主な要因として,「戦略」と「人材」の2つが挙げられる。

 Google社というと,最近では「本業」のWWWサイトの検索サービス以外の取り組みに大きな注目が集まっている。衛星・航空写真を表示する地図サービス「Google Earth」の無料配布,無料のWi-Fiネットワークの敷設計画,有料のビデオ配信サービス「Google Video Store」の開始などである。

 「次は何をやるんだろう」。多くの人はここに関心を寄せいる。しかし,Google社の軸足はぶれてはいない。あくまでも一番力を注いでいるのは,WWWサイトの検索サービス関連の改良である。Products&User Experience担当副社長のMarissa Mayer氏は,「地味なのでメディアに取り上げられることは少ないが,WWWサイトの検索サービスもしくはそれに関連する広告表示技術の品質向上に,全体の7割の人員と時間を割いている」と言う。現在,従業員は約5700人,その半分以上がエンジニアなので,少なく見積もっても1500人以上のエンジニアが,そこに携わっていると見ていい。

 それもそのはずである。というのも,Google社の売上高のほとんどは広告から生み出されている。特に,検索キーワードに関連して表示される検索連動型広告は,従来のバナー広告などより効果が高いために,今後も成長余力が大きい。2009年の米国における同広告市場は,2004年の約2倍に成長するとの予測もある。つまり,同社にとっては,検索サービスの利用回数が増えれば増えるほど売上高は伸びるわけで,検索をする端末をパソコンから携帯電話機,そして将来はカーナビや家電まで広げる,検索対象もテキストだけでなく画像や地図などに増やしていくのは,当然の戦略と言える。

 もうひとつ注目すべきは,高度な技術を生み出す人材の質と層の厚さである。それは,競合他社が「コンピュータ・サイエンスの優秀な人材は,ほとんどGoogleに取られてしまう」と嘆くほど,質の高いエンジニアが集まっている。実際,エンジニアの多くは米Stanford Universityなど一流大学の出身者で,博士号を取得している人が極めて多い。単に優秀なだけではない。面接を何度も繰り返すなどして,採用のプロセスに非常に長い時間をかけ,同社の企業文化に合う人物かどうか適正をじっくり見極めている。通常は最初の面接から採用決定までに6週間以上の時間をかけるとのことだ。

 2005年には,TCP/IP開発者のVinton Cerf氏が入社し,米Microsoft社からは音声認識や人工知能の研究で有名なKai-Fu Lee氏を引き抜くなど,「スター・エンジニア」も次々に参加している。

 Google社はユーザーに提供するサービスの質にこだわる一方,それを支える技術についてはあまり明らかにしていない。しかし,検索サービスだけみても,検索アルゴリズムや負荷分散,クラスタリング・コンピューティング構築など,ソフトウエアからハードウエアまで広範な技術を自社内に抱えている(詳細は『日経エレクトロニクス』2月13日号CoverStory「あなたの知らないGoogle」を参照)。

米国型グローバル戦略に限界?

 「WWW検索の分野では,もはやGoogleとは勝負できない」。かつて検索技術の開発に力を入れていたNTTの研究者でさえ,最近ではこう本音を漏らす。この分野でGoogle社と競争できるのは,米Yahoo!社や米Microsoft社などわずかな企業に絞られる。ただし,それらの競合企業にとっても,Google社との差を詰めていくのは容易ではなさそうである。

 しかし,そこは変化が速いインターネットの世界。Google社といえども,WWWサイト検索の次に来る大きな波にうまく乗れる保証はない。「次の大波は何か」。さまざまな議論があるが,確実に言えるのは,キーワードを入れるとそれを含むWWWサイトへのリンクを表示する現在の検索サービスには,大きな改良の余地があること。キーワードに対して,より直接的で役立つ回答を出すサービスが求められている。

 Google社は既に,これに向けた取り組みを始めている。しかし,記者は単純に技術だけでは解決できない壁がそこにはあると思う。具体的に言うと,各国の文化や生活様式にかかわる部分である。例えば,今注目を集めている検索サービスにローカル検索がある。この種の地域情報検索では,ユーザーが住む地域によって求める情報が大きく異なる。車文化の米国と,電車文化の日本では,ユーザー・ニーズに違いがあるように。世界共通仕様が受け入れられたWWWサイトの検索とは異なる,地域に密着した情報の収集などが,ローカル検索の完成度を高めるためには重要になる。

 ローカル検索と同様,今後は一般ユーザーが書き込む口コミ情報が重要になってくる。ブログもそうであるが,その国で話題になっている事柄,口語体で書き込まれた文章の解析,など各国事情に対してより精通することが,検索精度の向上に必要になってくる。

 Google社は2005年,東京にR&Dセンターを開設した。日本のユーザーのニーズを吸い上げ,それを生かした製品開発するのが目的である。しかし,開発リソースの大半を米国に置く現在の状況では,世界展開の中で各国事情にきめ細やかに対応したサービスを提供できるかどうかは未知数である。

 2005年12月22日,経済産業省は,NTT,ソニー,松下電器産業などの国内大手企業や東京大学,東京工業大学などから検索関連の技術者などを集め,「ITによる『情報大航海時代』の情報利用を考える研究会」を開催した。検索サービスの分野でGoogle社など米国企業が寡占状態にあることに政府として危機感を覚えており,マルチメディア検索など次世代検索サービスで,「日本人の好みに合った国産エンジン」を開発するのが狙いだと言う。同様の動きは,フランスやドイツの政府も見せている。

 これまで技術にフォーカスすることで驚異的な成長を遂げてきたGoogle社であるが,近い将来,単純に技術だけでは解決できないいくつもの壁を乗り越える必要が出てくるだろう。

内田 泰=日経エレクトロニクス