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「テープより高い」という常識を疑え

 次に,データのバックアップ用途にNASを利用する例として,(3)米DataDomainが開発した「DD400」を紹介したい(関連記事)。DD400の最大の特徴は,効率の高いデータ圧縮機能である。データを圧縮して格納することによって,実現できることは2つある。1つは容量あたりの媒体コストを下げられること,もう1つはレプリケーション時のデータ転送量を減らせることである。

 そもそもディスクの優位点は,テープよりもアクセスが高速で,バックアップや障害発生時のリカバリ作業が速い,ということにある。しかし,その一方で,テープよりも容量あたりの媒体コストが高くつくというデメリットがあった。テープのように遠隔地の倉庫に運んで保存するといった可搬性が乏しい点もデメリットだった。

 ところがDD400では,データ圧縮により,容量あたりの媒体コストは「テープよりも安い」と米DataDomainは主張している。データが圧縮されていればWAN回線を経由した遠隔地へのバックアップ・データのレプリケーション(複製)も容易になる。実際に同社は,遠隔地へのレプリケーションをDD400のセールス・トークに利用している。

 データ圧縮機能によって,ディスクがテープに代わるバックアップ用媒体になる。従来ならばテープを用いていたデータ・バックアップの用途にディスクを使うという発想が新しい。しかも,発想だけでなく,データを圧縮して格納することで,テープと比較したディスクのデメリットを克服している点に注目したい。

 DD400のデータ圧縮の仕組みは,とにかく圧縮率を高めるポリシーを持つ。ファイル単位のデータ圧縮ではなく,ディスク領域の全体にまたがる冗長性を取り除く。つまり,異なるファイルにまたがる冗長性を発見すると,同じデータを2重には書き込まない。この方式を取りつつ,データの追記や読み出しを可能にするために,どのデータがどこに書かれているのかを示すメタデータを利用する。

 ところで「NASを使わなくても,バックアップ用にディスクを利用するやり方はほかにもある」と思った読者もいるかもしれない。実際,例えば,ディスク・ストレージそのものをバックアップ先として使う方法がある。大規模なストレージの多くは,ディスク上にスナップショットを作成してバックアップの世代を管理する機能を持つ。また,バックアップ・ソフトに対してディスクを仮想的にテープ装置に見せるVTL(仮想テープ装置)を利用する方法もある。

 しかし,従来のケースではディスクをバックアップに使う場合であっても,ILM(情報ライフサイクル管理)の末端では最終的にテープに保存して倉庫に運ぶのが一般的だった。これに対してネットワーク機器として容易に扱えるNASをILMの末端でのバックアップに利用する。この発想が新しいと記者は思う。特に,DD400では,容量単価と遠隔レプリケーションによって,テープを置き換えることが可能になったのである。

 このように,ここ1年ほどのうちに登場したNASのバリエーションの数々には「なるほど」と感心させられるものが多い。初めに既存のシーズ(種)ありきでも,シーズをビジネスのプレゼンテーションへと結び付けるシナリオが描ければ,なおかつシナリオの前提となる需要を製品によって喚起できさえすれば,それが新しいビジネス価値の創造になる。

 イノベーションは,まったく新しい要素技術(新たなシーズ)を生み出すことだけではない。枯れた要素技術をどうビジネスに生かすか,何に注目してどんなコンセプトを立案するか。こうしたアイディアもイノベーションである。記者は,IT製品の中でも特に,今回紹介したNASをはじめとする運用管理の分野を評価したい。機能をどう生かすか,つまりビジネス価値そのものを創造することに注力しているからである。シーズそのものが新しいわけではなくても,ビジネスのアイディアが詰まっているのである。