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 読者の皆さんは映像圧縮技術の「DivX(ディビックス)」をご存じだろうか。DivXはMPEG-4方式をベースにした映像圧縮技術で,DVDで採用されているMPEG-2方式と比較して3~4倍の圧縮効率を誇る。2002~2003年頃から日本でも普及し始めているので,インターネットのヘビー・ユーザーの中には「使ったことがある」という人も増えているだろう。

 もっとも日本におけるDivXの一般的な認識は,「インターネットの違法ファイル交換で人気の圧縮形式」ではないだろうか。DivXはエンコーダ,デコーダとも無料で入手できるし,上記のように圧縮効率が非常に高いので,ネットでファイル交換するのに向いている。その一方で,商用ベースでDivXがほとんど利用されていないので,「違法な分野でばかり使われている」というイメージがついている。

 例えば,同じMPEG-4ベースの映像圧縮技術である「H.264」は,「iTunes Music Store」のミュージック・ビデオ販売や,PSP(PlayStation Portable)の「UMD(PSP用の小型ディスク)」によるビデオ販売に採用されている。それに対してDivXは,商用ビデオ販売などにほとんど採用されていない。加えて日本では,DivX対応プレーヤを販売しているのはパソコン周辺機器メーカーがほとんどで,大手家電メーカーでDivX対応プレーヤを扱っているのはごくわずかだ。

 筆者もDivXのことを「違法ファイル交換で人気の形式」としか思っていなかった者の1人である。2005年秋にペンタックスが,DivX形式で動画を保存できるデジタル・カメラを発売しているが,その際も筆者は「なぜ専用プレーヤ・ソフトが必要なDivXを採用したのだろうか?」と疑問に思っただけだった。

 そのため筆者は,2006年1月に米国Las Vegasで開催された世界最大の家電製品展示会「International CES 2006」で,非常に驚いてしまった。なぜ驚いたのかというと,大手メーカーのブースにDivX対応プレーヤが大量に展示されていたからである。

東芝ブースに並ぶ「DivX対応DVDプレーヤ」

 特に驚いたのは東芝のブースである。東芝といえば,初代DVDの規格策定を主導し,次世代DVD「HD DVD」の規格化や製品化も主導している「DVDの総本山」である。そのメーカーのブースに,DivX対応DVDプレーヤだけでなく,DivX対応DVDプレーヤを内蔵したブラウン管テレビがたくさん並んでいたのである。筆者はあまりに驚いたので,その驚きを「【CES/2006】東芝がDivX対応プレイヤを大量に展示,日本では未発売」という記事にした程である。

 実はDivXは,欧米,特に欧州で非常に一般的な映像圧縮技術である。「フランスで販売されているDVDプレーヤの70~75%に,DivXの再生機能が搭載されています」と語るのは,開発元の米DivX日本代表事務所の下井昌人アカウント・マネージャーである。下井氏は前述の筆者の記事を読んで,「DivXの現状を説明したい」と訪ねてきた人物である。

 日本ではマイナーなDivX対応プレーヤではあるが,全世界で見ると東芝以外にも,松下電器産業,ソニー,シャープ,パイオニアなどがDivX対応プレーヤを販売している。またDivX対応プレーヤに搭載されているエンコード・チップのメーカーも,ほとんどがルネサステクノロジ,松下電器産業,NECエレクトロニクスといった日本メーカーである。

DivX対応プレーヤの累計販売台数は5000万台

 DivXの下井氏は,「2005年末までに累計で5000万台のDivX対応プレーヤが販売されました。2005年の1年間で販売された台数は,そのうちの3500万台になります。日本で1年間に販売されるDVDレコーダーの台数が600万台程度ですから,それを考えると5000万台という数字がいかに大きいか分かるでしょう」と語る。

 DivX対応プレーヤの普及率が最も高いのはフランスで,ドイツやスペイン,東欧諸国などがそれに続くという。なぜ欧州では,DivX対応プレーヤの普及率が高いのであろうか。その理由について下井氏は「DVD再生専用機の市場競争がとても激しいため」と分析する。

 「欧州では,DVDレコーダーはほとんど普及しておらず,DVD再生専用機の方が人気があります。DVD再生専用機の市場競争が激しいため,DVD再生機能の付加価値競争が起きました。その結果,ほとんどのDVD再生専用機にDivX再生機能が付いたのです」(DivXの下井氏)。日本ではDVD再生専用機よりもDVDレコーダー(ハードディスク・レコーダー)の方が人気が高いので,録画機能でしか付加価値競争が起きず,DivX対応が進まなかったようだ。

テレビで再生できるMPEG-4系映像圧縮技術

 DivXの下井氏は「現在,テレビで再生できる(=DVDプレーヤで再生できる)MPEG-4系の映像圧縮技術で一番メジャーなのは,5000万台の再生インフラがあるDivXです」と強調する。例えばペンタックスがデジカメの動画形式にDivXを採用したのも「DivXであれば,DVD-Rにファイルをコピーするだけで,5000万台あるDivX対応プレーヤを使って,テレビで再生できるようになるためです」(下井氏)と語る。

 確かに,MPEG-4をベースにした映像圧縮技術には,DivXのほかに「H.264」や「VC-1」(Windows Media Videoで採用されている方式)なども存在するが,H.264やVC-1に対応したDVDプレーヤなどはほとんど存在しない。デジカメを使ってDivX以外のMPEG-4形式で動画を記録したとしても,その動画をテレビで再生するためには,デジカメをテレビに直接接続するか,パソコンなどでファイルを編集してDVDビデオなどに変換する必要がある。DivX対応DVDプレーヤで再生できるDivXの方が,再生可能環境は多いと言えるだろう。

 「H.264」や「VC-1」はHD DVDやBlu-rayが標準対応しているので,これら次世代DVDプレーヤであれば再生可能だ。しかし,次世代DVDプレーヤの販売はこれからである。「テレビで再生できるMPEG-4系映像圧縮技術」という視点で見れば,DivXが他のMPEG-4系圧縮技術を一歩リードしているのは間違いないようだ。

DivX DRMで流通するコンテンツは2万5000タイトル

 DivXの「合法的なコンテンツ」も増え始めている。DivXには「DivX DRM」というデジタル著作権管理(DRM)技術もある。下井氏によれば,DivX DRMを採用した商用デジタル・コンテンツが,既に2万5000タイトル存在しているという。DivX DRMのコンテンツをDVD-ROMに記録して販売したり,インターネットでダウンロード販売したりするのだ。

 現在のところ,DivX DRMの採用例のほとんどはアダルト・コンテンツだというが,インドの映画会社などでDivX DRMを採用する例も出てきたという。標準のDVDビデオ形式を採用するよりも,たくさんの動画をDVDメディアを使って販売できるのがメリットだ。DivXの下井氏は「DivX対応プレーヤを販売するメーカーに対して,『DivX DRMを採用したコンテンツをバンドルしませんか』という提案もしているところだ」と語る。

 1月に発表した米Googleとの提携もDivXの追い風になるだろう。Googleは「Google Video」という商用ビデオ配信サービスを2006年1月に発表した。このGoogle Videoにおいて,DivXがコンテンツ形式の1つとして採用されたのだ。「Google Videoで購入したコンテンツをテレビなど家電製品で見る場合の形式として,DivXが採用された」(下井氏)のだ。

MP3も当初は怪しげなイメージがつきまとっていた

 DivXを取り巻く状況は,MP3を当初取り巻いていた状況に良く似ていると感じている。MP3も当初は,現在のDivXと同じように「インターネットの違法ファイル交換で人気の圧縮形式」と思われていた時期があった。しかし,MP3に対応した携帯音楽プレーヤなどが登場したり,デジタル音楽配信サービスが一般的になるにつれて,悪いイメージは払拭されていった。DivXも同じように,対応する製品やDivXを採用する商用コンテンツ配信が増えれば,現在のイメージを払拭できるようと感じている。

 MPEG-4系映像圧縮技術の大本命が,HD DVDやBlu-rayに採用された「H.264」や「VC-1」であることは間違いないだろう。大手映画会社は,DivX DRMを全く採用していない。

 それでも「既存のDVDプレーヤで再生できるMPEG-4系映像圧縮技術」というDivXのポジションは,なかなか面白い。もし,「HD DVDやBlu-rayプレーヤには手が出ないけれども,ハイビジョン・コンテンツを見たい」というユーザー(例えば米国や欧州でまだ多いブラウン管型ハイビジョン・テレビの購買層)が増えれば,DivXが急浮上する可能性もありうるのではないだろうか。