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米ネットスイートのザック・ネルソンCEO
米ネットスイートのザック・ネルソンCEO
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 先日,ネットスイートという米国企業の記者会見に出席した。発表内容 は日本法人の設立と,日本市場における今後のビジネス展開に関するものだ。

 同社はERP(統合業務パッケージ),CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント),eコマースの機能を,インターネット経由で提供している。記者会見では,こうした提供形態を「サービス型ソフトウエア(SaaS:Software as a Service)」と呼んでいたが,日本ではASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスという呼び名の方が,通りがいいだろう。

 ネットスイートは特に,サーバーおよびサーバー管理者を抱え込みたくないSMB(中堅・中小企業)をメインのターゲットに位置付けている。キャッチフレーズは「SAP for SMB(中堅・中小企業のためのSAP)」だ。

 記者会見には,米本社のCEO(最高経営責任者)であるザック・ネルソン氏も出席していた。面白かったのは,ネルソン氏が会見冒頭で「ほとんどの(パッケージ・)ソフトウエアの機能は将来,ネットワークを介して提供されるようになる」とはっきり断言していたことだ。それどころか,ユーザーがハードウエアや基本ソフトを自分で用意しなければならないパッケージ・ソフトは,いまや「石器型ソフト」と呼ぶべき時代遅れの存在になりつつあるのだという。

 会見中に引用された調査会社の資料によると「サービス型ソフトウエアの成長率は(CDで提供される)パッケージ・ソフトの4倍」に達しており,米国のベンチャー・キャピタリストはもはや「ソフトをCDで提供するような企業には出資しない」(ネルソン氏)。そしてネットスイートは,そのサービス型ソフトウエアのパイオニアであり,「北米地域で最速の成長を遂げた企業として評価」(会見資料より引用)されている,というのだ。


ライフサイクル・コストの9割は導入後に発生する

 そこまで言うかとも思ったが,記者会見で景気の良い話を列挙するのは,CEOの重要な仕事でもある。それでも気になるのは,「ほとんどのパッケージ・ソフトウエアの機能はネットワークを介して提供される」というのが,どこまで本当なのか,ということだ。

 日本でも5年以上前にサービス型ソフトウエア,ではなくてASPサービスがさかんに話題に上ったことがある。当時,自前のサーバーや基本ソフトが不要なASPサービスは,中堅・中小企業を中心に急速に普及していくだろうと予想されていた。しかし,実際にはそれほどの広がりを見せず,ブームは沈静化した。受発注やメール管理など限定された業務で,ユーザーを着実に増やしてはいるものの,「ほとんどのパッケージ・ソフトウエアに取って代わる」とまで言われると,どうしても懐疑的になってしまう。

 今さら読者に説明するまでもないかもしれないが,改めてASPサービスのメリットを整理すると,以下のようになるだろう。

 1つは,導入後のメンテナンス・コストである。パッケージ・ソフトのライフサイクル全体で発生するコストのうち,「ライセンスのコストは1割に過ぎず,残り9割は導入後のメンテナンスで発生する」(ネルソン氏)。ASPサービスでは,このメンテナンス・コストを大幅に減らすことが可能になる。

 具体例としてネルソン氏が挙げていたのが,サーバーやOSのアップグレードに伴うパッケージ・ソフトの動作確認だ。

 パッケージ・ソフトではサーバー環境をアップグレードするとき,基本ソフトの細かいバージョン違いなどで,不具合が発生することがある。ベンダーの電話サポートだけで原因を突き止めようとしても,ベンダー側に同じ稼働環境が存在しなければ,原因を探ることは難しい。結局,ベンダーの担当者に現場へ来てもらい,オンサイトのサポートを受けることになる。

 ASPサービスでは,アップグレードに伴うこうした作業をユーザー企業が自ら行うことは不要になる。ネットスイートによれば,同社のデータセンターでは2005年,アップグレード作業が500回程度発生したという。このうち大規模なアップグレードでは,ユーザーに事前連絡した上で,影響の少ない時間帯に1時間ほどサービスを停止した。しかし,ほとんどのケースでは,ユーザーの業務に影響を与えずに済んだという。

 さらに,当たり前の話だが,そもそもサーバーや基本ソフト自体が不要なわけだから,それらのコストも不要になる。ASPサービスの利用料金にはベンダー側で運用するハードウエア,基本ソフト,それに運用担当者の人件費が含まれているが,それでも企業が自前で運用するよりは安く済む。


弱点は多いが,中堅・中小企業に魅力的なコスト効果

 いいことづくめのようだが,ASPサービスにはもちろん弱点もある。

 その1つは,業務システムを外部に委ねてしまうことへの不安だ。もちろん,社内でシステムを運用していても,情報漏えいやシステム・トラブルは発生する可能性はある。それでも「自社の目の届かないところで,機密データが流出するのではないか」といった不安を感じるユーザーは少なくないだろう。

 もう1つは,企業ごとのカスタマイズに限界がある,ということだ。特に,ERPのような基幹業務システムになると,導入時だけでなく,稼働後も細かい機能修正が必要になる可能性がある。企業が自前でシステムを運用する場合に比べて,ASPサービスでは臨機応変な対応は難しいだろう。

 このあたりの事情があるため,ネットスイートも当面のターゲットを中堅・中小企業に設定しているのだろう。実際,優秀なIT技術者を社内で確保することが難しい中堅・中小企業では,カスタマイズ作業も外部の専門家に依頼しなければならない。だとすれば,無理して社内にシステムを抱え込んでおく必要はない。

 ネットスイートは「導入時のカスタマイズもすべてオフサイト,つまりメールやFAXなどのやり取りだけで実施して,導入時のイニシャル・コストを削減する」と説明している。メールやFAXなどのやり取りだけで,そう細かいカスタマイズができるとも思えないので,オフサイトで導入支援する場合は,おそらくカスタマイズはインタフェースまわり中心に限定して,ビジネスロジックはあらかじめ用意されたテンプレートから選択する形になるのではないだろうか。

 記者会見のデモはユーザー・インタフェース中心だった。Ajaxを駆使したという操作性は,さすがに洗練されたもので,カスタマイズについても,入力値チェックのロジック変更などを説明してくれた。ビジネスロジックのカスタマイズは,「CTO(最高技術責任者)のエバン・ゴールドバーグがここにいればよかったんだけどね」(ネルソン氏)ということで,詳しい説明を聞くことはできなかったが,資料を見る限りビジネスロジックを記述する言語や,標準的なWebサービスAPIが提供されている。機能を追加したければ,Webサービス経由で連携する別のアプリケーションを用意しなさい,ということのようだ。

 果たして,サービス型ソフトウエアは従来型のパッケージ・ソフトを駆逐することができるのか。ネルソン氏の話を半分に割り引いたとしても,少なくとも中堅・中小企業にとってはメンテナンスのコストや手間を軽減できるメリットが魅力的であることは間違いない。オフコンのリプレース需要がいまだに大半を占める日本の中堅・中小企業ユーザーが,一足飛びにASPサービスを受け入れるかどうかには疑問もあるが,こうした状況がもう少し改善すれば,ASPサービスが主流となりそうな気はする。ネットスイートを含めたASPベンダーの動向は,今後も注意深くウォッチしていきたい。