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 国会でライブドア関連のメール問題が一騒動になっていた2月下旬。民主党の前原誠司代表は自民党の小泉純一郎首相との党首討論でメール問題に言及したが,証拠や新材料を突きつけられなかった。

 その後メールは偽物ということになったが,民主党内では党首討論のかなり前から,メールの信憑性に疑問の声が出ていたようだ。前原代表がメールの存在を信じて質問したのか,心の中では怪しいと思っていたが質問せざるを得なかったのか,どちらなのかはわからない。いずれにせよメールの信憑性について「大丈夫か?」と思う人が少なくない状況のなかで,前原代表は党首討論でメール問題を議論の俎上にのせた。

 この状況を見ていて,筆者は以前「日経コンピュータ」誌に在籍していたときに担当していた連載「不条理なコンピュータ」の事例に似ていると思った。不条理なコンピュータとは,関係者の多くが「このプロジェクトは危ない」と思っていたり,システム企画に合理性がないことがわかっていても,軌道修正できず暴走してしまうシステム開発プロジェクトのことである(ここで断っておくが,筆者は民主党を非難するために書いているわけではない。国会は国政の重要な問題をもっと活発に議論してほしいと願っている)。

 不条理なコンピュータの典型は,ある電気部品メーカーの社長がITベンダーのコンサルタントの助言を受け,ERPパッケージの導入を決定した事例だ。システム部門やシステムを利用する業務部門からは,自社の業務内容に合わないという問題点を指摘する声が上がっていたのだが,社外にERP導入を表明してしまったこともあり,社長は社員の声を無視して強引にプロジェクトを推進した。結局このプロジェクトは,開発の途中で頓挫した。

 不条理なコンピュータの例としてはこのほかに,合併する会社同士が不毛な権力争いを行ってシステム構築プロジェクトが破綻したケースや,得意先とのバーター取引で機能不足のパッケージを買わされシステム部員が困惑する,といったケースがある。前述した連載では,日本システムアナリスト協会の有志から成る「不条理なコンピュータ研究会」が,こういった問題プロジェクトの実態と内面を,関係者の心理描写も含めて詳しく記述した(不条理なコンピュータの事例と分析は,書籍 『30のプロジェクト破綻例に学ぶIT失敗学の研究』)にまとめられている)。

組織として不条理の芽を摘む対策が必要

 道理が通らないプロジェクトでは,システム部員はたいてい「おかしい。このままではダメだ」と思っている。しかし,経営者にはわかってもらえず,軌道修正できないままにプロジェクトが破綻に向かって進んでしまう。現場のITエンジニアにとって,破綻することが見えているプロジェクトをやらされるのは耐えがたいことだろう。

 こうした問題を回避するには,不条理が発生しやすいことを組織として認識し,その芽を摘むような対策がどうしても必要になる。

 例えば,稼働後にシステムの効果をしっかり評価する体制を作ることが,次のプロジェクトで不条理なコンピュータを防ぐ方策の一つになる。的確に評価され失敗したときの責任が明確になるのなら,無謀なシステム開発を強引に進めることはなくなるだろう。

 システム部門が積極的に不条理なコンピュータを撲滅できる仕組みを作っている企業もある。ある大手電機メーカーや外資系製薬会社は,まともでないシステム企画が通らないように,システム部門がプロジェクトの開始前に企画をチェックしたり,あるいは開始後に開発の進捗状況をチェックするようにしている。

 筆者は,不条理なコンピュータの開発に巻き込まれたシステム部員が会社を辞めるケースを取材でたびたび見てきた。いいシステムを作って会社に貢献しようと思っている真面目なITエンジニアほど傷つきやすい。経営者とシステム部門のマネジャーは,ぜひ不条理なコンピュータが発生しないように体制を整えていただきたいと願う。