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 前回の記者の眼(1月13日)で「システムの引き継ぎ問題」について経験談を募ったところ,多数の投稿を寄せていただいた。ありがとうございます。今日はその結果をご報告させていただくと同時に,それらの具体的なケースに基づいて,現場で起きている2007年問題の本質がどこにあるのかを考えてみたい。

 前回,「限られた取材では大きなトレンドを判断しにくい。改めてここでIT Pro読者の意見を求めたい」と投げかけた。問題提起の発端は“2007年問題”であった。まずは,寄せられた投稿を基に整理した私の考えを書きたい。

 一般的に「2007年問題」と言うと,「優秀なベテラン技術者が持つスキルが次の世代に引き継がれないこと」と定義される。例えば,ファイバースコープのレンズ磨きのように,徒弟方式でしか伝えられないスーパーハイレベルなスキルが若い世代では断絶する可能性がある,という類のものである。

 しかし,情報システムの開発/保守/運用の現場で,そのようなスーパーハイレベルなスキルが要求される局面は意外に少ない。ツールや手法,方法論は整備されてきたし,今の若手/中堅技術者はそれを学ぼうという意欲が旺盛だ。むしろ問題になるのは,ベテラン技術者が持つ“スキルの継承”よりも,ベテラン技術者が時間をかけて作り上げてきた“システム資産の継承”の方である。

 システム資産は「要件」と「技術」をコンピュータを使って具現化したものと言える。「要件」は,一般的な業務知識さえあれば,それ自体を理解するのにハイレベルなスキルは必要ないが,文書や口頭で説明されない限り引き継がれない。前任者からの説明がなければ,後任者は考古学者のように,ファイル棚の一角から発掘されるソースコードや仕様書などの破片を解読して要件を想像していくしかない。もう一つの「技術」も,それ自体のスキル習得は座学でも可能だが,それぞれのシステムには開発当時の担当者による工夫や特殊事情がある。オリジナルな工夫や特殊事情が多いほど,開発した本人以外が理解するのが難しい。

 さらに問題を複雑にしているのは,要件と技術が“稼働時”のままとは限らないことである。いったん稼働したシステムには,エンドユーザーの要請や製品/技術の変化により,刻々と機能追加/改変/修理/バージョンアップが加えられる。「A.稼働開始時のシステム」に「B.業務や技術が変質した量」を加えたものが,「C.現在稼働しているシステムの姿」である(A+B=C)。Cを一覧できる資料が整理されていることはほとんどない。

 開発した技術者が現場に残っているうちは,その人の脳みそで,ある程度Cを代替できるが,その人がいなくなった途端に,既存システム資産についての要件と技術が失われる。つまり,現場の2007年問題とは「優秀なベテラン技術者が持つスキルが次の世代に引き継がれないこと」ではない。普通の(または優秀な/劣悪な)技術者が作り,普通の(または優秀な/劣悪な)技術者がメンテナンスしてきたシステム資産を,今の世代の普通の(または優秀な/劣悪な)技術者がきちんと引き継ぐことが困難になっていることである。メインフレームを保守できる人がいなくなってしまうから,新たにCOBOL技術者を雇えばいいというような簡単な問題ではない。

 そう考えると,あらゆるシチュエーションで引き継ぎ問題は発生する。情報システムについての「狭義の2007年問題」はベテラン世代の引退に起因する問題だが,「広義の2007年問題」はベテラン/若手に限らず開発した人が(退職や異動を含め)運用や保守の現場からいなくなってしまうことに起因する問題なのである。どちらも本質は同じだ。

 以上を踏まえて,ITpro読者から寄せられた経験談を紹介しよう。すべてを紹介するにはあまりにも分量が多いので,代表的なものを5点選んで,私のコメントとともに並べていく(一部,編集させて頂いた。ご容赦いただきたい)