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 現場改善を6年間続けたら、売上高経常利益率が10倍以上になった---。

 そんな企業がある。キヤノンの子会社で、プリンタやデジタルカメラなどの電子部品を製造するキヤノン電子だ。1999年、当時赤字スレスレだったキヤノン電子の社長に就任し、その後6年で同社を立て直したキヤノン出身の酒巻久社長は、今やちょっとした有名人である。

 酒巻社長は既に、『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる!』(祥伝社)、『キヤノン方式のセル生産で意識が変わる 会社が変わる』(日本能率協会マネジメントセンター)など、キヤノン電子での改革をまとめた自身の書籍を4冊出している。メディアにも何度も登場している酒巻社長の活躍を聞き及んでいるITProの読者も多いことだろう。

 酒巻社長の書籍から受ける同氏の印象は、必ずしも良いものではないかもしれない。例えば『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる!』では、社員のパソコンや電子メールの利用履歴を監視して、パソコンが社員の「怠惰の隠れ蓑」になっていたことを指摘している。この一節があることで、この書籍の印象は強烈なものになっている。

 パソコンの私的利用は良くないと思いながらも結局は黙認するしかない企業が多いなかで、酒巻社長の厳しい監視行動を「おかしい」と感じた人もいただろう。剛腕社長によって、社員が監視され、抑圧されているようにも見えかねないからだ。

 しかし、実際に現場に行ってみると、そんな印象は全く受けなかった。埼玉県秩父市にあるキヤノン電子の工場では、みんな生き生きしているように見える。この酒巻マジックとは、いったい何なのだろうか?

 本人に聞いてみると、「私はみんなに自分で考える癖がつくように仕向けただけです。最近は社員が自分の判断でどんどん動いてくれるので、社長の私は暇になりました。社長室で本ばかり読んでますよ」という答えが返ってきた。

 確かに、社長室の本棚には、付せんが張られたビジネス書が所狭しと並んでいた。多忙な社長業の合間に書籍を4冊執筆した酒巻社長はたいへんな読者家であり、自分で原稿も書く。ただしパソコンの私的利用を気にしてか、原稿は電車や車での移動時間に携帯電話のメモ帳に打ち込んでいるとのこと。それにはさすがに驚いた。

 さらに驚いたのは酒巻社長の語り口だ。書籍から想像していたよりも穏やかで謙虚。しかも自分で工場を案内して回るほど、気さくな人だった。
 そんな酒巻社長はどうやって、「社員が自分で考える」環境を作り出せたのか。酒巻社長は、自身が社長就任直後の1999年に始めた「ピカイチ運動」を例に挙げて説明してくれた。

 ピカイチ運動は工場で働く作業員や隣接する本社のスタッフなど全従業員に対して、「テーマは何でもいいから自分が世界一になる」ことを奨励した取り組みのことである。酒巻社長は社員に「楽しみながら世界一を目指せばいい。工場の草むしりでもペンキ塗りでも朝早い出社でも何でも構わない」と言って、ピカイチ運動をまず始めた。ピカイチ運動のためにマークまで作り、今でも社員は皆、工場の制服の上着にピカイチマークを縫い付けたり、首からワッペンをぶら下げている。

 ピカイチ運動の狙いは、社員が自分でテーマを考えることだった。そして達成できた社員を酒巻社長自身が表彰する。そこまできたら、次は達成したテーマを「維持する方法」を考えてもらい、達成できればまた社長が表彰する。これを何度か繰り返しているうちに、「誰でも自然と自分で考える癖が身に付く」(酒巻社長)という。その雰囲気が生まれたら改善は早くなるというのだ。

 その成果を自分の目で確かめたいと、今ではキヤノン電子の工場に、1年間に500人以上の見学者が訪れるようになったという。なかには、見学だけでは物足りず、酒巻社長に直談判して「弟子入り」を申し出る企業まで出てきた。酒巻社長によれば「儲かっている会社ほど、そうした動きが早い」という。酒巻社長に教えを受けた企業では、無駄を見つける専門組織を作るなど、キヤノン電子に刺激を受けた活動が活発になってきている。

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