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 NTTドコモは,自社の携帯電話ユーザーを対象とした新しいクレジット決済サービス「DCMX MiNi」を2006年4月28日に開始した。この新サービスは,非接触ICカード技術「モバイルFeliCa」を採用した携帯電話機を対象とする決済プラットフォーム「iD」を使って提供している。NTTドコモはユーザーが1カ月に使える金額を最大1万円に設定しており,コンビニなどでの少額決済市場をターゲットとして狙う。

 NTTドコモは提携先の三井住友カードなどを通じた加盟店の早期獲得を既に終えており,2006年末に約10万店,2007年3月末に約15万店で,iD対応の決済サービスを使えるようにする。今秋には,顧客が契約先の携帯電話事業者を変えても同じ番号を使えるようにする「番号ポータビリティ制度」が導入されるが,同社はこの決済サービスを切り札として,同制度導入後の事業者間競争を乗り切る構えである。

 こうしたNTTドコモの動きに対して,携帯電話サービスで競合するKDDIが対抗姿勢を強めている。KDDIはまず,日本企業としてクレジットカードの国際ブランド提供を手掛けるジェーシービー(JCB)と手を組んで,JCBが開発したFeliCa対応の少額決済方式「QUICPay」に自社の携帯電話機を対応させる方針だ。

 そのJCBは店舗端末を加盟店に普及させるため,東日本旅客鉄道(JR東日本)の電子切符や店舗決済に使える電子マネー「Suica」との共用端末の設置を4月中旬に開始した。共用端末の提供によって導入店舗のメリットを高め,加盟店数の増加ペースを上げる狙いである。

 KDDIはさらに,東京三菱UFJ銀行と共同で2007年前半に新銀行を設立する予定で,その銀行口座を持つKDDIのユーザーが携帯電話機をデビットカードとして使えるサービスを実現することも検討しているようだ。KDDIはこれらの金融業界の企業をパートナーとして,NTTドコモに決済サービスでも対抗できる体制を整えようとしている。

 携帯電話業界ではここ数年間,大容量伝送が可能でパケット通信料を安くしやすい移動通信方式「CDMA2000 1xEV-DO」の採用で優位に立ったKDDIが,「着うたフル」などの大容量コンテンツを安価な定額制パケット通信料で使えるサービスを武器に加入者を増やす,という構図が続いていた。

 これに対してNTTドコモは,3月から定額制パケット料を安価な通話プランと組み合わせられるようにし,今夏には1xEV-DO方式と同等の伝送能力を持つ方式「HSDPA」を導入する。これにより料金や大容量コンテンツではKDDIに追いつくことになるが,「番号ポータビリティ導入後の競争を優位に展開するには,携帯電話機向けコンテンツなど追いつかれやすいサービス分野の強化だけでは不十分で,携帯決済という大規模な設備投資を伴う競争で先を行く必要がある」(NTTドコモ)とみている。

 NTTドコモはこうした危機感をほのめかす一方で,iD対応決済サービスの拡大については,「国内の少額決済市場は約57兆円という統計がある。このように潜在需要が大きい市場をわが社だけで獲得するのは非現実的であり,競合他社と一緒に市場拡大に向け努力していきたい」としている。

 ところがJCBによれば,「わが社はクレジットカードの加盟店を約580万店獲得しているが,少額決済はコンビニやスーパーなど対象店舗が限定的であるため,有効な加盟店数は15万店程度」という見方に変わる。この試算を前提にすると,iDの加盟店が2006年度末で約15万店に達すると,NTTドコモが有効な店舗をほぼ押さえることになる。さらにNTTドコモは,「少なくとも当初の10万店舗にはiD専用の店舗端末を設置する方針」としている。番号ポータビリティ導入後の競争について,下馬評ではKDDI優位との声も上がっているが,NTTドコモが2006年に入って急激に巻き返してきたようだ。

 もともと携帯電話の番号ポータビリティは,事業者間のサービス競争を活発にすることを目的として総務省が導入を決めた経緯がある。ユーザーの立場からみると,特に料金水準の低廉化につながることを期待したくなる。

 しかし移動通信業界では,消耗戦となる単純な料金競争を避けようとする傾向がある。今回も,従来の移動通信ネットワークでの設備投資競争に加えて,NTTドコモが決済サービスでの設備投資競争を仕掛けている。

 このように移動通信業界での資本主義的な競争は止まる気配を見せないが,果たして携帯決済サービスは通信料金値下げを上回るメリットをユーザーに与えられるのだろうか。

 単に少額決済が便利になったり,クレッジット決済の安全性が高まるだけでは不十分である。地域経済の活性化など,ユーザーの社会生活レベルの向上につながる役割を求めたい。一記者としてそう考えている。

■変更履歴
 JCBの加盟店の数が当初「約590店」となっていましたが,これを「約580万店」に訂正しました。[2006/05/09 10:50]