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 「現在のシステムは、以前に米国で聞いた講義がヒントになっているんですよ」。こんなエピソードを語ってくれたのは、セイコーインスツルの西田眞生CIO(情報システム戦略統括)である。

 西田氏は1993年に、米スタンフォード大学でジェフリー・フェファー氏の講義を受けた。フェファー氏は現在、経営大学院教授を務めており、組織行動論を研究している。このときの講義内容は、大まかに以下のようなものであるという。記者の理解が足りない部分もあると思うが、ご容赦いただきたい。

・企業がどのように意思決定を進めるかは、その企業が持つ“文化”に基づく

・情報システムは、その企業のビジネスや組織の変化、競合他社の変化、市場の変化、システム技術の変化といった“環境”に大きく左右される

・企業文化に基づく意思決定の仕組みと、企業環境に左右される情報システムは、本来別個に管理されるべきものである。ところが現状では、これらが事実上“一体化”している。これが、情報システム部門が苦労する要因を生み出している——

 一般に企業文化というと、経営者の経営方針や理念、社風といったものを指す。これをより具体化していくと、その企業に固有の業務手順、あるいは事業を進める際の価値観や判断基準といったものになる。前者はビジネス・プロセス、後者はビジネス・ルールと呼ばれるものだ。

 これまで多くの企業では、こうしたビジネス・プロセスやビジネス・ルールをシステム(アプリケーション)に組み込んでいた。例えば、顧客企業から製品の注文を受ける手段が、「A社からはEDI(電子データ交換)で受注する」、「B社からはファクシミリで発注書を受け取る」というのであれば、A社向け、B社向けのビジネス・プロセスをそれぞれアプリケーションに記述する。「未払い請求書のない顧客は優良と見なす」といったビジネス・ルールも、同様にアプリケーションの中で記述していた。

 ところが、これだと不都合が少なくない。まず、個別のシステムにビジネス・プロセスやルールを組み込むと、システム間をまたがるプロセスやルールを記述しづらい点が挙げられる。実際の業務は、複数のシステムを連携させて進めることが多い。

 保守性にも問題がある。ビジネス・プロセスやルールが変わると、それらをアプリケーションに直接記述しているプログラム自身を、その都度変更しなければならなくなる。プロセスやルールの数が多かったり複雑だったりすると、なおさら保守の手間がかかってしまう。

日本版SOX法も大きなきっかけに

 これに対し、フェファー氏は「企業文化に基づく意思決定の仕組みは、通常のシステムと切り離して扱うのが望ましい」と主張する。つまり、ビジネス・プロセスやビジネス・ルールを、通常のシステムとは切り離して管理・実行する仕組みを用意すべき、ということだ。

 この考え方に従い、ビジネス・プロセスに基づいて、企業のさまざまなシステムを束ねる形で複数の業務にまたがる処理を進めるのが、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)である。セイコーインスツルはBPMという言葉が出てくる以前から、フェファー氏の講義などを参考にして、自社のシステムのあるべき姿を追求し、BPMの採用に至った。詳しくは、日経コンピュータ5月15日号特集「BPMの威力」をご覧いただきたい。

 BPMでは、ビジネス・プロセスをXMLなどを使って定義する。これまでのようにアプリケーションのロジックとして記述するのではなく、アプリケーションとは別に記述し、管理・実行するのがポイントだ。ビジネス・プロセスは専用の実行環境で解釈され、既存のシステムを呼び出しながら処理を実行する。

 この形を採れば、ビジネス・プロセスやルールを個々のシステムから独立させているので、企業環境の変化に対応できる。この考え方が、企業システムの変化対応力を高めるSOA(サービス指向アーキテクチャ)につながっているのは言うまでもない。実際、BPMはSOAの一要素として語られることが多い。

 BPMのメリットは、ビジネス・プロセスと既存システムを切り離せることだけではない。複数のシステムをまたがる形で企業文化を反映できるようになる点も大きい。

 「ビジネス(事業)とITの一体化」というフレーズを耳にすることが多い。システムがビジネスを真の意味で支える、すなわちビジネスの重要な意思決定を支援する存在になるには、企業文化をシステムに効果的に反映させる手段を講じる必要がある。その実現にBPMは役立つと期待できる。

 日本版SOX法(日本版企業改革法)の施行を間近にひかえ、自社のビジネス・プロセスを可視化し、整理する必要性に迫られている企業は少なくない。そのことを考えても、いまこそBPMに目を向けて、企業文化を生かした企業システムの構築に挑むべきタイミングが来ていると言えるだろう。