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 「はい、カメラさん準備よろしいですか。じゃあ、いきますよ。(ジャ~)はい、では次の方、前へどうぞ。よろしいですか、いきますよ~」。

 松下電器産業が「キーボード全面防滴」を打ち出したノートパソコン「Let's note LIGHT CF-Y5」(関連記事「松下のノート新機種、キーボードに防滴加工」)の発表会場では、説明員がCF-Y5へ実際に水を掛けるデモを実施。電源が入った状態のCF-Y5が数台と、おびただしい数のミネラルウォーターのペットボトルを用意して、押し寄せるメディアを前に何回も繰り返しデモを実演してみせた。

 1回のデモで掛ける水の量はコップ1杯。おおむね200mlというところだろう。「どのくらいまで掛け続けるのだろうか」と思い、しばらく眺めていたが、同じパソコンに何回も何回も水を掛け続ける。5~6回繰り返したところで、ようやく「ちょっと機材を替えさせてください。さすがに中に水が貯まっちゃうので」といって、別のCF-Y5をセット。そしてまた、コップ1杯ずつ何回も水を掛け続ける…。

 筆者にとって、久々に興奮した発表会だった。

 最近のパソコンを巡るトレンドとしては、いわゆるテレビパソコンがあり、次世代光ディスク搭載機がある。しかし、私がすれっからしになったためか、激しく驚き感激するパソコンには久しくお目にかかっていなかった。

 そういう意味では、今回のCF-Y5は想像を絶するものだった。水を掛け続けても駆動し続けるというのは、筆者の予想を超えている。「TOUGHBOOK(タフブック)」と異なり、普通のノートパソコンであるCF-Y5に排水機構を実装したハードウエア技術者の苦労に頭が下がる思いである。

 念のために補足しておくと、CF-Y5は防滴パソコンとしては後発品である。先日の詳報記事「ノートパソコンの水との戦い、その歴史を探る」にも記した通り、防滴パソコンの先駆けはレノボ・ジャパン(旧日本IBM)が1998年に発売した「ThinkPad 600」である。その後、同社は排水路または排水口を全機種に標準装備している。韓国LG電子も、ノートパソコンの排水路の機構に関する特許を日本で出願済みだ。

 松下のいう「ウォータースルー構造」も、同社の発表資料と分解品によれば、キーボード下部に防水シートを張り、排水口と排水溝を設けるというものである。少なくとも筆者の見る限り、先進性はあまり感じられなかった。

 それでも、松下は他社があえて避けてきた、防滴性の大々的なアピールに打って出たのである。CF-Y5の完成度の高さによほどの自信を持っていることの現れといえよう。

 パソコン業界に携わる者として、今後に期待することが2つある。一つは、ノートパソコンの防滴性という新たなフィールドで、メーカー各社が競い合う環境ができることである。松下自身が開発の背景として指摘するように、誤ってパソコンを水で濡らしてしまったことのある読者の方は多いだろう。デスクトップパソコンならまだしも、ノートパソコンでは死活問題である。

 この問題を、ハードウエア設計で、ある程度解決できるのなら、ユーザーは大歓迎だろう。既に防滴パソコンを販売している東芝や富士通やレノボ・ジャパンはもちろん、それ以外のパソコンメーカーも、おそらくCF-Y5を分解して、内部の防滴構造を調べていることだろう。今回のCF-Y5を契機に、各社の開発陣が奮起することを期待したい。

 もう一つは、若干大げさな話かもしれない。日本のパソコン産業を再興させる一つの契機として、ノートパソコンの防滴性を生かせないかいうことだ。

 電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、日本国内のパソコン産業は、最盛期だった2000年度に2兆円産業だった。それが2005年度には1兆6000億円まで落ち込んだ。販売台数は伸び続けているのに、である(関連記事「JEITAが2005年度のパソコン出荷統計を発表」)。

 もちろん、平均単価の下落はパソコンが誰でも使えるコモディティ化していることの証ではある。ユーザーにとっても、パソコンが安く買えるに越したことはなく、「私は日本のパソコン産業を支えるために高価な製品を買います」などというユーザーはほとんどいないだろう。

 であれば、目指すべき道は「高くても防滴加工をしてあるパソコンがほしい」とユーザーに思ってもらえるような製品を作ることだ。もちろん防滴加工だけで4000億円も出荷金額を上乗せできるはずはないが、防滴技術の持つ潜在力はテレビパソコンや次世代光ディスク搭載機に匹敵するものがあると筆者は考えている。単価下落を食い止め、日本のパソコン産業が再び活性化するキッカケとなってほしい。

 蛇足ではあるが、今回筆者が残念に思ったことを1点だけ指摘しておきたい。それは、パンフレットやニュースリリースなどに書かれた「キーボード全面防滴※」というCF-Y5のキャッチコピーである。「※」の部分を参照すると、「防滴範囲はキーボード全面(側面、バッテリー部、スピーカー部、DVDドライブが開いた状態は対象外)。本製品の防滴性能は、無破損・無故障を保証するものではありません。予めご了承ください。水をこぼしたら、必ず点検(有償)に出してください」と書いてある。

 こう書く事情はある程度は察することができる。あらゆるユーザーのあらゆるシチュエーションにおいて、あらゆる種類の液体からパソコンを守ることは現実的に不可能だろう。側面にむき出しになっている端子や、液晶ディスプレイのヒンジ部なども含めて防滴加工するのも困難に違いない。そのため、きちんと注釈を付けておかないと、優良誤認のそしりを受けかねない。できるだけ宣伝効果を高めつつ、法的な問題が起こる可能性も考慮して、こういう表現に落ち着いたのだろう。

 ただ、「全」の字を見て期待したユーザーが注釈に目を落としたときに、多かれ少なかれ落胆を感じることは免れない。そしてまた、今後防滴機構に改良を加え、現行製品を上回る防滴性を実現したときに、あるいは今回防滴加工を見送ったCF-R5/T5/W5でも防滴加工を実現したときに、何というのだろう。細かな話かもしれないが、期待が大きかっただけに、落胆もひとしおだった。

 日ごろ脚光を浴びることの少ない防滴技術に注目している筆者としては、CF-Y5で感じた感動と落胆を、読者の皆様に伝えておきたいと思った次第である。