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 「業務システムの構築作業は詰まるところ“お絵描き”になる」。SOA(サービス指向アーキテクチャ)のシステムがネットワークにもたらすインパクトを探った日経コミュニケーション5月15日号特集記事「“サービスをつなぐ”という新発想,企業ネットに迫り来る『SOA』の波」の取材の過程で,ベンダーやインテグレータから幾度となく聞いた話だ。

 ここで言う“お絵描き”とは,「発注入力」「発注承認」といった業務プロセスの流れを,作図ツールよろしく線でつないでいく作業のこと。SOAのシステムでは「受注」や「出庫」といった企業活動の実態に近い粒度にまとめたプログラムを「サービス」として定義。サービスを組み合わせることでシステムを構築する。

 企業活動はヒト・モノ・カネの連携が中心。それらの連携を迅速にシステムに落とし込むための技術がSOAというわけだ。

見えなくなるボトルネック

 SOAは企業を取り巻く環境の激変への即応を模索した結果たどり着いた理想像の一つだが,ネットワーク担当者からすればたまったものではない。システム開発者が業務プロセスを記述する際,ネットワークの存在感は皆無に近い。

 例えばある業務プロセスをひょいと別の業務システムにつないだら,その線の背後には東京のシステムと中国のシステムをつなぐネットワークがあった,という事態が起こり得る。帯域保証のある専用線から,ベスト・エフォートでしかないインターネットVPNに経路が変わっているかもしれない。

 ネットワークがインフラとして見えなくなるというのは,アプリケーション開発者からすれば歓迎すべき進展。ただネットワークに起因する性能低下や障害がひとたび起こればトラブルの沼にはまる。

 既に兆候は出始めている。あるシステム・インテグレータは「対象拠点数が1000を超えるSOA事例において,本番環境になって初めて分かったボトルネックの解消に苦労した」と話す。

 システム開発者の側からは,サービスとして抽象化したインタフェースの背後にあるハード/ソフト,それらをつなぐネットワークの種類や数が見えにくい。一方,ネットワーク技術者からすれば,SOAで構築したシステム全体のどこがボトルネックなのか分からない。ネットワークやコンピュータなど下位レイヤーを気にしなくても良いというSOAの強みが,トラブル発生時には弱点に変わる。

無視を決め込むSOAアプリ

 SOAと銘打つ業務アプリケーションを拡販するソフトウエア・ベンダーはどう考えているのか。インテグレータの開発環境をお絵描きレベルに持って行こうとしている以上,ネットワークを最適化する策を用意しているのではないかと期待していた。

 ところが取材に対する返答は「ネットワークは意識していない」という声がほとんど。「ブロードバンドの普及であらゆるネットワークの帯域が向上したから大丈夫」,「ネットワークは単なる土管で構わない」,というのが代表的な理由だ。

始まるネット側の準備

 もっともネットワークを無視する格好のベンダーを責めるのは筋違いだろう。上位レイヤーにとって使いやすいネットワーク基盤を用意すること,言い換えればアプリケーション開発者に無視されることこそがネットワークの正常進化だからだ。そこでネットワークの側も来たるべきSOA時代に備えて着々と準備を始めている。

 一つは,SOAでボトルネックとなる処理の高速化装置として働くネットワーク機器である。SOAでデータを運ぶ主役となるXML(extensible markup language)ファイルの経路制御やフィルタリング機能を備える,いわば“SOAアクセラレータ”だ。米IBM社の「WebSphere DataPower XML Security Gateway XS40」や米シスコシステムズの同社製スイッチ/ルーター向け拡張モジュール「AON(application-oriented networking)ブレード」などがある。

 もう一つは,通信事業者が構築中のNGN(次世代ネットワーク)。電話網並みの信頼性を持つIPネットワークを目指すNGNは,エンド・ツー・エンドのQoS(Quality of Service)保証を実現する。いずれは通信サービスとして企業ネットワークでも使えるようになる見込みだ。さらには日本テレコムやNTTコミュニケーションズのように,通信事業者が回線とデータセンター,各種ミドルウエアをセットにしたインフラ,いわゆるコンバージド・プラットフォームを一括提供する動きも出てきた。

SOAへの覚悟を決めよ

 しかしいずれもネットワーク担当者の側から見れば不安材料を抱えている。

 SOAアクセラレータは機器ベンダーへの依存を招きかねない。NGNはインターネットとの差別化を図る目的で料金体系にプレミアが付くはずだ。対価に値する効果があるか見極められるだけの業務知識が求められる。コンバージド・プラットフォームへの一任は,アウトソースの常として「業務のインフラを外部に任せていいのか」という空洞化の懸念がついて回る。

 「全拠点の業務システムをSOAベースで刷新することにした」――。その号令が響いたとき,システムからネットワークは見えなくなっても,ネットワーク担当者までもが存在感を失う道理はない。設計やトラブル時にネットワークに起因する問題点を指摘する立場にあるのは,SOAを学んだネットワーク担当者だけだ。